盾の勇者の成り上がり 口絵

アニメスタート記念で超増量!! 十話まで一気に試し読み!

盾の勇者の成り上がり 1

著者:アネコユサギ / イラスト:弥南せいら

一話 王道的召喚

「ん?」

 俺は町の図書館に読書しにやってきていた。

 俺、いわたになおふみは大学二年生だ。人よりも多少、オタクであるという自覚はある。

 様々なゲームにアニメ、オタク文化と出会ってから、それこそ勉強より真面目に取り組んで生きている。

 両親もそんな俺を早々に見限り、弟を有名な塾に通わせて将来の地固めをしている。

 そんな目に入れても痛くないほど大切にしていた弟は受験の疲れで不良化、髪を金髪に染め、ぞうごんを家で言い放っていたものだ。一時期我が家も暗くなった。

 そこに現れた救世主こそ、俺!

 常時舌打ちして機嫌の悪そうな弟に気さくに話しかけ、有名な美少女恋愛ゲームを勧める。

「ああ!? ざっけんなよ!」

「まあ、だまされたと思って遊んでみてくれよ」

 俺は知っている。弟が不良になってしまった理由を。

 好きなものを自由に買い与えられて育った俺に対し、弟はそうではなかった。弟は俺と同じ様に遊びたかったのだ。だから、そんな遊びのスペシャリストの俺が勧めるゲームと聞いて、弟も興味を持ったと後に語る。

 結果だけを言うと、世界にオタクがまた一人増えた。

 今や弟の部屋は俺の勧めた美少女恋愛ゲームのグッズで占められている。

 しかも悔しいことに受験の疲れから精神的に解放された弟は有名進学校に合格、トップ街道を駆け抜けている真っ最中らしい。

 この、俺の大いなる活躍により、両親はますます俺を甘やかすこととなり、俺は自由な大学生活を満喫している。

 さて、話は脱線したが、その日、俺は町の図書館へ読書しに来ていた。

 両親がくれる月々の軍資金は一万円。友人同士でエロゲやエロ本、ライトノベルに漫画を回しているとあっという間になくなってしまう金額だ。アルバイトをしてさらに五万円ほど軍資金にしているが、夏と冬、その他地方の祭典に参加しているとそれも即座に底を突く。

 イベントに自分からは参加しない弟の為にも両親はイベント期間中のみ、祭典場近くに宿泊する場所を提供してくれているが……。

 まあ、生活があるのでそこまで投資してくれないのが当然だ。学費と衣食住の提供だけで十分だ。

 だから節約の為に、懐が寂しい時は古本屋で立ち読みしたり、図書館で読書をしたりしている。

 暇ならネットゲームでもやれば良いのだろうが、アレは極めるとなると無限に時間を浪費していくからな。

 そもそも俺は浅く広い知識で遊ぶタイプなのだ。

 レベルカンストを目指すよりもゲーム内では如何に金銭を稼ぐかに夢中になる。く言う今もネットゲーム内で俺の作成したキャラクターは、レアアイテムを露店で販売している真っ最中である。

 そのため、リアルの俺は絶賛暇を持て余し中である。

 でだ。

 事件はこの後に起こった。

 俺は古いファンタジーを扱っているコーナーへ目を通していた。

 何分、人類の歴史に匹敵する程、ファンタジーの歴史は古いからな。聖書だって突き詰めればファンタジー小説だ。

「四聖武器書?」

 なにやら古そうな本が、本棚から落ちてきた。タイトルは辛うじて読める。おそらく、前に手に取った奴が棚に戻すのをおざなりにして立ち去ったのだろう。

 まあ、これも何かの縁だ。俺は椅子に腰を掛けて四聖武器書を開いて読む。

 ペラ……ペラ……。

 世界観の説明から入る話だ。

 要約すると、とある異世界で終末の予言がなされた。

 その予言は幾重にも重なる災厄の波がいずれ世界を滅ぼすというもの。

 災厄を逃れる為、人々は異世界から勇者を呼んで助けを乞うたとか何とか。

 ……うーむ。使い古されたネタであるが、これだけ古臭い本となると新鮮だったのかもしれない。

 そして召喚された四人の勇者はそれぞれ武器を所持していた。

 剣、やり、弓、そして盾。

 いや~そもそも盾は武器じゃなくて防具だろう~などと苦笑しながら続きを流し見ていく。

 勇者達は力をつけるため旅立ち、己を磨き、災厄の波に備えていった。

「ふわぁ……」

 ヤバイ、眠くなってくる。王道過ぎて欠伸あくびが出る。古いからか可愛いヒロインとかが全然出てこないんだ。精々王女様くらいだけど、四人も勇者がいる事でビッチ臭がしてきてイライラする。

 王女も、どの勇者にも色目を使いやがって、誰か一人にしろよ。

 大活躍の剣の勇者とか、仲間思いの槍の勇者とか、間違った事が許せない弓の勇者とかさ。

 どの勇者も見所があってかっこ良くはある。最近の作品には少ないけど、全員が主人公的な話なんだろう。

 お? 盾の勇者の方へ物語がシフトして

「あれ?」

 ページをめくった俺は思わず声を上げた。

 盾の勇者を語るページから先が真っ白だったのだ。

 何度見直しても真っ白で、その先は無い。

「何なんだ?」

 不思議に思っていると、今度は身体がふらふらしてきた。

「あ、あれ?」

 そうつぶやいたのを最後に、俺の意識はスーッと遠くなっていった……。

 まさか、これで異世界に行くとは夢にも思いはしなかった。

二話 勇者紹介

「おお……」

 感嘆の声に俺はハッと我に返る。

 定まらなかった視点を前に向けると、ローブを着た男達がこちらを見て何やらぜんとしていた。

「なんだ?」

 声がした方に目を向けると俺と同じように状況を飲み込めていないらしき男が三人。

 一体どうなっているのか、首を傾げた。

 俺、さっきまで図書館に居たよな、なんで……? ていうかここはドコだ?

 キョロキョロと辺りを見渡すと石造りの壁が目に入る。

 レンガ調という奴か? とにかく、見覚えの無い建物だ。間違っても図書館ではない。

 下を見ると蛍光塗料を塗られて作られたかのような幾何学模様と祭壇があった。

 なんとなくファンタジー物に出てくる魔法陣に似たものもある。

 その祭壇に俺達は立たされていた。

 でだ……なんで俺、盾を持っているんだ?

 妙に軽く、ピッタリと手に引っ付く盾を俺は持っていた。何で持っているのか理解に苦しむので地面に置こうとするのだけど手から離れない。

「ここは?」

 とにかくどうなっているのか気になっている所で、前に居る剣を持った奴がローブを着た男に尋ねた。

「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

「「「「はい?」」」」

 異口同音で俺達は叫んだ。

「それはどういう意味ですか?」

 何だろうこのフレーズ。ネット小説とかで読んだ事があるような気がする。

「色々と込み入った事情がありますが、ご理解していただける言い方ですと、勇者様達をいにしえの儀式で召喚させていただきました」

「召喚……」

 うん。あれだ。何かのドッキリである可能性は非常に高いが、一応は話を合わせて聞いておくにこしたことは無い。仮にドッキリでもだまされている奴の方がしいだろう。

 俺は好きだぞ。そういうネタ根性。

「この世界は今、存亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」

 ローブを着た男達が深々と俺達に頭を下げる。

「まあ……話だけなら

「嫌だな」

「そうですね」

「元の世界に帰れるんだよな? 話はそれからだ」

 話を聞こうと俺がしゃべっている最中、遮るように他の三人が口を挟んだ。

 はい?

 必死に頭を下げている奴になんて態度で答えるんだよ、コイツ等。

 話だけでも聞いてから結論を述べれば良いだろうに。

 俺が無言でにらむと三人は俺に視線を向ける。

 ……なんで半笑いなんだよ、コイツ等。微妙にテンションが上がってるのが分かるぞ。

 実はうれしいんだろ、お前等。まあこれが真実なら、異世界に跳躍したいという夢をかなえられた状況だけどさー……お前等のセリフもじょうとうだよな。でもさ、だからこそ話を聞いてやれよ。

「人の同意なしでいきなり呼んだ事に対する罪悪感をお前らは持ってんのか?」

 剣を持った男、パッと見だと高校生くらいの奴がローブを着た男に剣を向ける。

「仮に、世界が平和になったらポイっと元の世界に戻されてはタダ働きですしね」

 弓を持った奴も同意してローブの男達を睨みつける。

盾の勇者の成り上がり 挿絵1

「こっちの意思をどれだけみ取ってくれるんだ? 話によっちゃ俺達が世界の敵に回るかもしれないから覚悟しておけよ」

 これは、アレだ。自分達の立場の確認と後の報酬に対する権利の主張だ。

 どれだけたくましいんだコイツ等は、なんか負けた気がしてくる。

「ま、まずは王様にえっけんして頂きたい。報奨の相談はその場でお願いします」

 ローブを着た男の代表が重苦しい扉を開けさせて道を示す。

「……しょうがないな」

「ですね」

「ま、どいつを相手にしても話はかわらねえけどな」

 逞しい奴等はそう言いながら付いて行く。俺も置いて行かれないように後を追うのだった。

 俺達は暗い部屋を抜けて石造りの廊下を歩く。

 ……なんだろう。空気が美味しいと表現するだけしか出来ないのは俺の語彙が貧弱だからだろうか。

 窓からのぞく光景に俺達は息をむ。

 どこまでも空が高く、そして旅行のパンフレットにでも描かれていそうな、ヨーロッパのような町並みがにはあった。しかしそんな町並みに長く目を向ける暇は無く、通されるまま廊下を進むと直に謁見の間に辿たどりついた。

「ほう、こやつ等が古の四聖の勇者達か」

 謁見の間の玉座に腰掛ける偉そうなじいさんが俺達を値踏みしてつぶやいた。

 なんというか、第一印象が良くないなぁ……。

 人をめるように見る奴を俺はどうも好きになれない。

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク三二世だ。勇者達よ顔を上げい」

 さげてねーよ! と、突っ込みを入れたい衝動に駆られたがグッと我慢する。

 一応は目上の相手だし、王様らしいからな。

「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向いつつある」

 やはりというか、そこも王道的な展開だ。

「まあ異世界から勇者を召喚するんだから、それ位の理由はあるよな」

「そうですね」

 王様の話をまとめるとこうだ。

 現在、この世界には終末の予言と言うものが存在する。いずれ世界を破滅へ導く幾重にも重なる波が訪れる。その波が振りまく災厄をね退けなければ世界は滅ぶというのだ。

 その予言の年が今年であり、予言の通り、古から存在するりゅうこくの砂時計という道具の砂が落ちだしたらしいのだ。

 この龍刻の砂時計は波を予測し、一ヶ月前から警告する。伝承によれば一つの波が終わる毎に一ヶ月の猶予が生まれる。

 当初、この国の住民は予言をないがしろにしていた。しかし、予言の通り龍刻の砂時計の砂が一度落ちきったとき、災厄が舞い降りた。

 次元の亀裂がこの国、メルロマルクに発生し、凶悪な魔物が大量に亀裂からい出てきた。

 その時は辛うじて国の騎士と冒険者で退治することが出来たのだが、次に来る波は更に強力なものとなる。

 このままでは災厄を阻止することが出来ない。だから国の重鎮達は伝承に乗っ取り、勇者召喚を行った。というのが事のあらましだ。

 ちなみに言葉が分かるのは俺達が持っている伝説の武器にそんな能力があるかららしい。

「話は分かった。で、召喚された俺達にタダ働きしろと?」

「都合の良い話ですね」

「……そうだな、自分勝手としか言いようが無い。滅ぶのなら勝手に滅べばいい。俺達にとってどうでもいい話だ」

 先ほどの笑い方からわかるけど、内心は大喜びの癖にぬけぬけと何を言っているのやら。

 まあ、俺も便乗するか。

「確かに助ける義理も無いよな。タダ働きした挙句、平和になったら『さようなら』なんてされたらたまったもんじゃない。というか帰れる手段があるのか聞きたい。その辺りどうなの?」

「ぐぬ……」

 王様が臣下の者に向けて視線を送る。

「もちろん、勇者様方には十分な報酬を差し上げる予定です」

 俺を含め、勇者達はグッと握り拳を作った。

 よし! 話し合いの第一歩を踏み出した。

「他に援助金も用意できております。是非、勇者様方には世界を守って頂きたく、その為の場を整える所存です」

「へー……まあ、約束してくれるのなら良いけどさ」

「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」

「……そうだな」

「ですね」

 どうしてコイツ等は常に上から目線なんだよ。現状、王国が敵になったら一番困るのは俺達だ。

 まあ、ここはしっかりしておかなきゃ骨折り損のくたびれもうけになりかねないからしょうがないか。

「では勇者達よ。それぞれの名を聞こう」

 ここで俺は気が付いた。これ、さっきまで読んでいた本、四聖武器書に似ていないか?

 剣にやりに弓、そして盾。

 勇者という共通項もあるし、俺達は本の世界に迷い込んでしまっているのかもしれない。そう考えていると剣を持った少年剣の勇者が前に出て自己紹介を始めた。

「俺の名前はあまれんだ。年齢は一六歳、高校生だ」

 剣の勇者、天木錬。外見は、美少年と表現するのが一番しっくり来るだろう。

 顔の作りは端正で、体格は小柄で一六〇センチくらいだろうか。女装をしたら女の子と間違う奴だって居そうな程、顔の作りが良い。髪はショートヘアーで若干茶色が混ざっている。

 切れ長の瞳と白い肌、なんていうかいかにもクールという印象を受ける。

 細身の剣士という感じだ。

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前はきたむらもとやす、年齢は二一歳、大学生だ」

 槍の勇者、北村元康。外見は、なんと言うか軽い感じのお兄さんと言った印象の男性だ。

 錬に負けず、整った顔立ちだ。彼女の一人や二人居そうなくらい、人付き合いを経験しているような雰囲気がある。身長は一七五センチくらいか。

 髪型は後ろに纏めたポニーテール。男がしているのに妙に似合っているな。

 面倒見の良いお兄さんって所か。

「次は僕ですね。僕の名前はかわすみいつき。年齢は一七歳、高校生です」

 弓の勇者、川澄樹。外見は、ピアノとかを弾いていそうな大人しそうな少年だ。

 なんていうのだろう。はかなげな、それでありながらしっかりとした強さを持つ、あやふやな存在感がある。身長はこの中で一番低い一五五センチくらいか。

 髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。大人しそうな弟分という感じ。

 みんな日本人のようだ。これで外国人とかだったら驚くけどさ。

 おっと、次は俺の番か。

「最後は俺だな、俺の名前はいわたになおふみ。年齢は二十歳、大学生だ」

 王様が俺を舐めるように見てきた。背筋が何かむずがゆいな。

「ふむ。レンにモトヤスにイツキか」

「王様、俺を忘れてる」

「おおすまんな。ナオフミ殿」

 まったく、抜けた爺さんだ。そりゃあ……なんとなくこの中で俺は場違いな気もするが其処はこう、忘れないで欲しい。

「では皆の者、己のステータスを確認し、自らを客観視してもらいたい」

「へ?」

 ステータスって何!?

「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

 樹がおずおずと王様に尋ねた。

「何だお前等、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」

 錬が、情報に疎い連中だとあきれたように言う。

 知るか! というか、何だその情報通ですって顔は。

「なんとなく視界の端にアイコンが無いか?」

「え?」

 言われるまま、を見るでもなくぼんやりとすると視界の端に何か妙に自己主張するマークが見えた。

「それに意識を集中するようにしてみろ」

 ピコーンと軽い音がして、まるでパソコンのブラウザのように視界に大きくアイコンが表示された。

 岩谷尚文

 職業 盾の勇者 Lv

 装備 スモールシールド(伝説武器)

 異世界の服

 スキル 無し

 魔法 無し

 さらっと見るだけでもまだまだ色々な項目があるけれど割愛する。ステータスとはこれの事か。

 っていうかなんだよこれ! 妙にゲームっぽいな。

「Lvですか……これは不安ですね」

「そうだな、これじゃあ戦えるかどうか分からねぇな」

「というかなんだコレ」

「勇者殿の世界には存在しないので? これはステータス魔法というこの世界の者なら誰でも使える物ですぞ」

「そうなのか?」

 現実の肉体を数値化して見ることが出来るのが当たり前なのか、これは驚きだ。

「それで、俺達はどうすれば良いんだ? 確かにこの値は不安だな」

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」

「強化? この持ってる武器は最初から強いんじゃないのか?」

「いいえ。召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」

「その武器が武器として役に立つまで別の武器とか使えばいいんじゃね?」

 元康が槍をくるくる回しながら意見する。

 それもそうだ。というか俺は盾、武器ですらない物を持たされているのだから必要だ。

「そこは後々片付けて行けば良いだろ。とにかく、頼まれたのなら俺達は自分磨きをするべきだ」

 錬がそういって場をまとめた。

 異世界に勇者として召喚されるという燃えるようなシチュエーション。

 少々マンガじみているが、オタクなら是が非でもやってみたいという思いが沸々と湧いてくる。

 なんていうか胸一杯の状態で興奮が冷めそうに無い。他の連中も同様でみんなご執心だ。

「俺達四人でパーティーを結成するのか?」

「お待ちください勇者様方」

「ん?」

 冒険の旅に出ようとしていると大臣が進言する。

「勇者様方は別々に仲間を募り冒険に出る事になります」

「それは何故ですか?」

「はい。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様方だけで行動すると成長を阻害すると記載されております」

「本当かどうかは分からないが、俺達が一緒に行動すると成長しないのか?」

 ん? なんか武器の所に伝説の武器の使い方とかヘルプがついている。

 みんな気が付いたようで目で追っている。

『注意、伝説の武器を所持した者同士で共闘する場合。反作用が発生します。なるべく別々に行動しましょう。』

「本当みたいだな……」

 というか何だこのゲームっぽい説明は。まるでゲームの世界に入り込んだみたいだ。

 まあこんなリアリティのあるゲームは存在しないし、人間が生きているんだから現実なんだけど、システム的に見て、そういう感想を抱いた。

 ズラーッとこの武器の使い方が懇切丁寧に記載されているけれど、今は全部読んでいる暇はなさそうだ。

「となると仲間を募集した方が良いのかな?」

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。こちらは明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」

「ありがとうございます」

「サンキュ」

 それぞれの言葉で感謝を示し、その日は王様が用意した来客部屋で俺達は休むこととなった。

三話 勇者相談

 来客室の豪華なベッドに座り、みんなそれぞれの武器をマジマジと見つめながら視界に浮かぶステータス画面に目を向けている。

 窓の方を見ると何時の間にか日がとっぷりと沈んでいた。

 それだけ集中して説明を読んでいる訳だ。

 えっと、伝説の武器はメンテナンスが不必要の万能武器である。

 持ち主のLvと武器に融合させる素材、倒したモンスターによってウェポンブックが埋まっていく。

 ウェポンブックとは変化出来る武器の種類を記載してある一覧表であるらしい。

 俺は武器のアイコンにあるウェポンブックを開く。

            

 ズラ────────────────!

 枠を越えて武器アイコンは長々と記載されていた。そのどれもがまだ変化不可能と表示されている。

 ふむふむ、特定の武器につながるように武器を成長させたりも出来るみたいだな。

 アレだ。ネットゲームのスキルツリーみたいな感じだ。

 スキルを覚えるには変化出来る武器に収められた力を解放する必要がある、と……。

 ホント、ゲームっぽいな。

「なあ、これってゲームみたいだな」

 俺以外の連中もヘルプを見ているのだろう。俺の問いに返事をした。

「っていうかゲームじゃね? 俺は知ってるぞ、こんな感じのゲーム」

 もとやすが自慢げに言い放つ。

「え?」

「というか有名なオンラインゲームじゃないか、知らないのか?」

「いや、俺も結構なオタクだけど知らないぞ?」

なおふみ、知らねえのか? これはエメラルドオンラインってんだ」

「何だそのゲーム、聞いたことも無いぞ」

「尚文、本当にネトゲやったことあるのか? 有名タイトルじゃねえか」

「俺が知ってるのはオーディンオンラインとかファンタジームーンオンラインとかだよ、有名じゃないか!」

「なんだよそのゲーム、初耳だぞ」

「え?」

「え?」

「皆さん何を言っているんですか、この世界はネットゲームではなくコンシューマーゲームの世界ですよ」

「元康、いつき、違うだろう。VRMMOだろ?」

「はぁ? 仮にネトゲの世界に入っているとしてもクリックかコントローラーで操作するゲームだろ?」

 元康の問いにれんが首をかしげて会話に入ってくる。

「クリック? コントローラー? お前ら、何そんなこっとう品みたいなゲームの話をしているんだ? 今時ネットゲームと言ったらVRMMOだろ?」

「VRMMO? バーチャルリアリティMMOか? そんなSFの世界にしかないゲームは科学が追いついてねえって。寝ボケてるのか?」

「はぁ!?

 錬が声高々に異を唱える。

 そういえば、コイツは一番早くステータス魔法ってのに気が付いたな。何か手れている印象を受ける。もしかしたら何か知っているのかも。

「あの……皆さん、この世界はそれぞれなんて名前のゲームだと思っているのですか?」

 樹が軽く手を上げて尋ねる。

「ブレイブスターオンライン」

「エメラルドオンライン」

「知らない。っていうかゲームの世界?」

 ゲームっぽいとは思うけど、まったく知らないゲームの世界に来てしまったのか俺は?

「あ、ちなみに自分はディメンションウェーブというコンシューマーゲームの世界だと思ってます」

 みんなそれぞれ聞いたことも無いゲームの名前を告げる。

「まてまて、情報を整理しよう」

 元康が額に手を当てて俺達をなだめる。

「錬、お前の言うVRMMOってのはそのまんまの意味で良いんだよな?」

「ああ」

「樹、尚文。お前らも意味は分かるよな」

「SFのゲーム物にあった覚えがありますね」

「ライトノベルとかで読んだ覚えがある」

「そうだな。俺も似たようなもんだ。じゃあ錬、お前の、そのブレイブスターオンラインだっけ? それはVRMMOなのか?」

「ああ、俺がやりこんでいたVRMMOはブレイブスターオンラインと言う。この世界はそのシステムに非常に酷似した世界だ」

 錬の話を参考にすると、VRMMOというものは錬にとって当たり前のようにある技術で、脳波を認識して人々はコンピューターの作り出した世界へダイヴする事ができるらしい。

「それが本当なら、錬、お前のいる世界に俺達が言ったような古いオンラインゲームはあるか?」

 錬は首を横に振る。

「これでもゲームの歴史には詳しい方だと思っているがお前達が言うようなゲームは聞いたことが無い。お前達の認識では有名なタイトルなんだろう?」

 俺も元康もうなずく。

 オンラインゲームに詳しいのなら聞いたことが無いというのはおかしい。

 そりゃあ、俺達の視野が狭い可能性があるかもしれないが、有名タイトルくらいなら言えるはずだ。

「じゃあ一般常識の問題だ。今の首相の名前は言えるよな」

「ああ」

「一斉に言うぞ」

 ゴクリ……。

「湯田正人」

「谷和原剛太郎」

「小高縁一」

「壱富士茂野」

「「「「……」」」」

 聞いたことも無い首相の名前だ。間違っても歴史の授業に出てきた例は無い。

 それから俺達は自分の世界で有名なネット用語やページ、有名ゲームを尋ね合った。そしてそのどれもを互いが知らないと言う結論に至った。

「どうやら、僕達は別々の日本から来たようですね」

「そのようだ。間違っても同じ日本から来たとは思えない」

「という事は異世界の日本も存在する訳か」

「時代がバラバラの可能性もあったが、幾らなんでもここまで符合しないとなるとそうなるな」

 なんとも奇妙な四人が集まったものだ。

 だとしても、みんなオタクなのは共通なのだろう。気にする必要も無いか。

「このパターンだとみんな色々な理由で来てしまった気がするのだが」

「あんまり無駄話をするのは趣味じゃないが、情報の共有は必要か」

 錬がなんとも鼻にかかる声で、俺はクールだぜと主張するように話し出す。

「俺は学校の下校途中に、ちまたを騒がす殺人事件に運悪く遭遇してな」

「ふむふむ」

「一緒に居た幼じみを助け、犯人を取り押さえた所までは覚えているのだが」

 ……錬は脇腹を摩りながら事情を説明する。

 幼馴染を助けるとか何処のヒーローだよお前と、ツッコミを入れてやりたいがまあ良いとしよう。大方、犯人を捕まえたのは良いけどみ合いで脇腹を刺されたといった所か。

 見栄とうそを堂々と言う辺り、信用したくないカテゴリーに入れたいが勇者仲間だ。聞き流してあげよう。

「そんな感じで気が付いたらこの世界に居た」

「そうか、幼馴染を助けるなんてカッコいいシチュエーションだな」

 俺のお世辞にクールを装って笑っている。もうそれは良いから。

「じゃあ次は俺だな」

 軽い感じで元康が自分を指差して話し出す。

「俺はさ、ガールフレンドが多いんだよね」

「ああ、そうだろうよ」

 何か面倒見のよさそうなお兄さんっぽいし。女の子が好きっぽいイメージある。

「それでちょーっと」

「二股三股でもして刺されたか?」

 錬が小ばかにするように尋ねる。すると元康は目をパチクリさせて頷きやがった。

「いやぁ……女の子って怖いね」

「ガッデム!」

 俺は怒りを露にして中指を立てる。

 死ねこの野郎。いや、死んだからこの世界に召喚されたのか?

 おっと、樹が胸に手を当てて話し出す。

「次は僕ですね。僕は塾帰りに横断歩道を渡っていた所……突然ダンプカーが全力でカーブを曲がってきまして、その後は……」

「「「……」」」

 十中八九かれたか……なんとも哀れな最後だ。

 ん? この中で俺、浮いてないか?

「あー……この世界に来た時のエピソードって絶対話さなきゃダメか?」

「そりゃあ、みんな話しているし」

「そうだよな。うん、みんなごめんな。俺は図書館で見覚えの無い本を読んでいて気が付いたらって感じだ」

「「「……」」」

 みんなの視線が冷たい。

 何? 不幸な身の上でこの世界に来なきゃ仲間に入れてくれないのか?

 ヒソヒソと三人は俺には聞こえないように内緒話をしだす。

「でも……あの人……盾だし……」

「やっぱ……元康の所もそう?」

「ああ……」

 なんだか馬鹿にされているような気がしてきた。話題をらそう。

「じゃあみんな、この世界のルールっていうかシステムは割と熟知してるのか?」

「ああ」

「やりこんでたぜ」

「それなりにですが」

 なるほどなぁ……となると俺だけ素人ってことになるじゃねえか! ひっでぇ。

「な、なあ。これからこの世界で戦うために色々教えてくれないか? 俺の世界には似たゲームは無かったんだよ」

 錬は冷酷に、元康と樹は何故かとても優しい目で俺を見つめる。

「よし、元康お兄さんがある程度、常識の範囲で教えてあげよう」

 何か嘘臭い顔で元康が俺に片手を上げて話しかけてくる。

「まずな、俺の知るエメラルドオンラインでの話なのだが、シールダー……盾がメインの職業な」

「うん」

「最初の方は防御力が高くて良いのだけど、後半に行くに従って受けるダメージが馬鹿にならなくなってな」

「うん……」

「高Lvは全然居ない負け組の職業だ」

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 それは聞きたくなかった!

 何その死亡通告、俺は最初から負け組ですよと言いたげだな。おい!

「アップデート、アップデートは無かったのか?」

 職業バランスとか!

「いやぁシステム的にも人口的にも絶望職で、放置されてた。しかも廃止決定してたかなぁ……」

「転職は無いのか!?

「その系列が死んでるというかなんていうか」

「スイッチジョブは?」

「別の系統職になれるネトゲじゃなかったなぁ」

 げ!? これが本当なら難しい職業をやらされる羽目になるのか。

 俺は自分の盾を見つめながら思う。お前、そんなに将来が暗いのか?

「お前等の方は?」

 錬と樹に目を向ける。すると二人ともサッと目を逸らしやがった。

「悪い……」

「同じく……」

 えー! という事は俺はハズレを引いてしまったのか?

 放心する俺を横目に三人はそれぞれのゲームの話題に花を咲かせる。

「地形とかどうよ」

「名前こそ違うがほとんど変わらない。これなら効率の良い魔物の分布も同じである可能性が高いな」

「武器ごとの狩場が多少異なるので同じ場所には行かないようにしましょう」

「そうだな、効率とかあるだろうし」

 どいつもコイツも俺ってチート能力に目覚めたんじゃね? って思っているような気がしてきた。

 ……そうだ。俺が弱いなら仲間に頼ればいいじゃないか。

 やる方法は幾らでもある。俺がダメでもパーティーで戦えば自然と強くなれる。

 異世界といえば仲間達と一緒に戦い、心を深めていく。これが王道だろう。

 仲間に女の子がいれば完璧だな。盾的には敵の攻撃を防いで守る感じか。元の世界では女の子と縁が無かったが、もしかしたらこれから出会いがあるかも。

「ふふ……大丈夫、せっかくの異世界なんだ。俺が弱くてもどうにかなるさ」

 三人から何かかわいそうな物を見る目で見られているような気がしたけど、気にしたら負けだ。

 そもそもだ。俺の装備は防具だし、ゲームとは違うんだ。成長する専用の盾を捨てて武器を使えば良い。

「よーし! 頑張るぞ!」

 己に活を入れる。

「勇者様、お食事の用意が出来ました」

 お? どうやら晩飯が食べられるみたいだ。

「ああ」

 みんな扉を開け、案内の人に騎士団の食堂に招待された。

 ファンタジー映画のワンシーンのような城の中にある食堂。そのテーブルにはバイキング形式で食べ物が置いてある。

「皆様、好きな食べ物をお召し上がりください」

「なんだ。騎士団の連中と一緒に食事をするのか」

 ぶつぶつと錬がつぶやく。これで文句を言うなんて失礼な奴だな。

「いいえ、こちらにご用意した料理は勇者様が食べ終わってからの案内となっております」

 そう言われて、俺は辺りを見渡す。

 すると騒がしいと思っていた人たちはコックであるのに気が付いた。

 なるほど、優先順位という奴か。俺達が食べ終えてから騎士団の連中に披露すると。

「ありがたく頂こう」

「ええ」

「そうだな」

 こうして俺達は異世界の料理を堪能した。

 ちょっと不思議な味だと思ったけど、食べられない料理は無かった。

 ただ、オムレツっぽいのにオレンジの味がしたりと変わった食べ物がかなり交じっていたけど。

 食事を終えた俺達は、部屋に戻ると途端に眠くなって来た。

「風呂とか無いのかな?」

「中世っぽい世界だしなぁ……行水の可能性が高いぜ」

「言わなきゃ用意してくれないと思う」

「まあ、一日位なら大丈夫か」

「そうだな。眠いし、明日は冒険の始まりだ。サッサと寝ちまおう」

 元康の言葉にみんな頷き、就寝に入った。

 俺を含め三人とも明日が待ち遠しいと思いながら就寝した。明日から俺の大冒険が始まるんだ!

四話 特別支度金

 翌朝。

 朝食を終えて、王様からお呼びが掛かるのを今か今かと俺達は待ちわびた。

 さすがに朝っぱらから騒ぐわけにも行かず、日の傾きから十時過ぎくらいになったかなぁ……と思った頃、俺達は呼び出しを受けた。

 待ってましたと俺達は期待に胸を躍らせてえっけんの間に向う。

「勇者様のご来場」

 謁見の間の扉が開くとには様々な冒険者風の服装をした男女が十二人ほど集まっていた。

 騎士風の身なりの者もいる。

 おお……王様の援助はすごいな。

 俺達は王様に一礼し、話を聞く。

「前日の件で勇者殿の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」

 一人に付き三人の同行する仲間が居るのなら均等が取れるな。

「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者殿と共に旅立つのだ」

 え? そっちが選ぶ側?

 これには俺達も驚きだった。まあ、よくよく考えれば異世界の良く分からない連中に選ばせるよりも国民の方に重きを置くよなぁ。

 横一列に並ばされる。

 ザッザッと仲間達が俺達の方へ歩いてきて、各々の前に集まっていく。

 れん、五人。

 もとやす、四人。

 いつき、三人。

 俺、〇人。

「ちょっと王様!」

 なんだよコレは! 幾らなんでもひどいんじゃねえか。

 俺のクレームに王様は冷や汗を流す。

「さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

「人望がありませんな」

 事もあろうにあきれ顔で大臣が切り捨てる。つーか気のか王様が棒読みに聞こえた。

 そこへローブを着た男が王様に耳打ちをする。なんとなく笑ったような……?

「ふむ、そんなうわさが広まっておるのか……」

「何かあったのですか?」

 元康が微妙な顔をして尋ねる。

 さすがにこれでは不公平も甚だしい。何だよこの、小学校でチームを作って遊ぶ時に一人だけ仲間はずれにされたような感覚は。

 幾らなんでも異世界に来てこんな気持ちになるなんて聞いて無いぞ。

「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者はこの世界に疎いという噂が城内でささかれているのだそうだ」

「はぁ!?

「伝承で、勇者とはこの世界を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」

 元康が俺の脇腹を肘で小突く。

「昨日の雑談、盗み聞きされていたんじゃないか?」

 似たゲームを知らないっていうアレか? あれが原因で俺は仲間はずれにされているのか?

 というかなんだよその伝承。俺は詳しくないけど、曲がりなりにも盾の勇者だぞ!

 そりゃあ他の勇者の話いわく、負け組の武器持ちだけど、ここはゲームじゃねえよ!

「つーか錬! お前五人も居るなら分けてくれよ」

 何かおびえる羊みたいな目で錬に同行したい冒険者(男を含む)が錬の後ろに隠れる。

 錬もなんだかなぁとボリボリと頭を掻きながら見て、

「俺はつるむのが嫌いなんだ。付いてこれない奴は置いていくぞ」

 と、突き放す口調で話すわけだが、そいつらは絶対に動く気配が無い。

「元康、どう思うよ! これって酷くないか」

「まあ……」

 ちなみに男女比は、女性の方が多いという不思議。

 ある意味ハーレムが完成しかけている。

「偏るとは……なんとも」

 樹も困った顔をしつつ、慕ってくれる仲間を拒絶できないと態度で表している。

 ちなみに元康の仲間はみんな女だ。何処までも女を引き寄せる体質なのかコイツは。

「均等に三人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」

 樹のもっともな言葉にその場に居る者がうなずく。

「だからって、俺は一人で旅立てってか!?

 盾だぞ! お前らの理屈だと負け職の武器だぞ! 仲間がいなくてどうやって強くなれってんだ!

「あ、勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 元康の部下になりたがった女性が片手を上げて立候補する。

「お? 良いのか?」

「はい」

 セミロングの赤毛の可愛らしい女の子だ。

 顔は結構可愛い方じゃないか? やや幼い顔立ちだけど身長は俺より少し低いくらいだ。

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」

 ……誰も手を上げる気配が無い。王様は嘆くようにためいきを吐いた。

「しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間を勧誘して人員を補充せよ。勇者殿には月々の援助金を配布するが、ナオフミ殿には代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

「は、はい!」

 妥当な判断だ。

 俺を気に入らないなら仲間になりたい奴を探して補充するのが一番良い。

「それでは支度金である。勇者達よしっかりと受け取るのだ」

 俺達の前に四つの金袋が配られる。

 ジャラジャラと重そうな音が聞こえた。その中で少しだけ大き目の金袋が俺に渡される。

「ナオフミ殿には銀貨八〇〇枚、他の勇者殿には六〇〇枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」

「「「「は!」」」」

 俺達と仲間はそれぞれ敬礼し、謁見を終えた。

 それから謁見の間を出ると、それぞれの自己紹介を始める。

「えっと盾の勇者様、私の名前はマイン・スフィアと申します。これからよろしくね」

「よ、よろしく」

 何か遠慮とかそんなのが無い感じでマインは気さくに話しかけてくる。あんな出来事があったからかちょっと気後れしちゃったけど、俺の仲間になってくれた子だ。

 仲間は大切にしていかなきゃな。俺は、他の勇者と比べて負け組の武器な訳だし。

 それにマインは女の子、俺は盾、防御系だ。絶対に守っていかないとな。

「じゃあ行こうか、マイン、さん」

「はーい」

 マインは元気に頷くと俺の後ろに着いて来た。

盾の勇者の成り上がり 挿絵2

 城と町をつなぐ跳ね橋を渡ると、そこは見事な町並みであった。

 昨日もチラッと見たけれど、近くで見るとますます異世界に来たんだなぁと実感する。

 石造りの舗装された町並みに、家、そこに垂れ下がる看板。そして食べ物のしそうな匂いが立ち込めていて感動する。

「これからどうします?」

「まずは武器とか防具が売ってる店に行きたいな」

「そうですね。それだけのお金があるなら良い装備も買えますし」

 盾しか持っていない俺は、まず武器が必要だ。得物が無ければ魔物とかと戦えないし、他のやつらに追い付くのだって難しいだろう。何せ、あいつ等は成長する武器を持っているのだ。それなら少しでもスタートダッシュせねばあっという間にぶっちぎられてしまう。

 勇者として召喚されたからには手を抜きたくないし、負け職でも付いて来てくれたマインの為にも頑張らないとな。

「じゃあ私が知ってる良い店に案内しますね」

「お願いできる?」

「ええ」

 持つべき物は仲間だよな。マインはスキップするような歩調で俺を武器屋まで案内してくれる。

 城を出て十分くらい歩いた頃だろうか、一際大きな剣の看板を掲げた店の前でマインは足を止めた。

「ここがオススメの店ですよ」

「おお……」

 店の扉から店内をのぞき見ると壁に武器が掛けられていて、まさしく武器屋といった内装だ。

 他にもよろいとか冒険に必要そうな装備は一式取り扱っている様子。

「いらっしゃい」

 店に入ると店主に元気良く話しかけられる。筋骨隆々の、絵に描いたような武器屋の店主がカウンターに立っている。これでぶよぶよの脂肪の塊みたいな店主だったら嫌だったから良い。本当に異世界に来たんだなぁ。

「へー……これが武器屋かぁ……」

「お、お客さん初めてだな。当店に入るたぁ目の付け所が違うな」

「ええ、彼女に紹介されて」

 そう言って俺はマインを指差すと、マインは手を上げて軽く振る。

「ありがとうよ、お嬢ちゃん……? 嬢ちゃん、どこかで会った事ねぇかい?」

「前にも来た事があるから。この辺りじゃ親父さんの店って有名だし」

うれしいこと言ってくれるねぇ。所でその変わった服装の彼氏は何者だい?」

 そう言えばこの世界の基準だと、今の俺の服装は異世界の服だよな。

 ともすればお上りにしか見えないか、もしくは変な奴だ。

「親父さんも分かるでしょ?」

「となるとアンタが噂の勇者様か! へー!」

 まじまじと親父さんは俺を見つめる。

「あんまり頼りになりそうに無いな……」

 ズルっとコケそうになった。

「はっきり言いますねぇ」

 親父さんの言う通り、確かに頼りなくは見えるだろう。これから強くなるわけだし。

「勇者のアンちゃん、良い物を装備しなきゃ冒険者連中にめられるぜ」

「でしょうね……」

 ははは、裏表ない気持ちの良さそうな人だ。

「見た所……はずれか?」

 俺の頬が引きつるのを感じた。

 どうして俺の噂の伝達は早いのだろうか。まあ、いい。気にしたら負けだ。

「盾の勇者であるいわたになおふみと申します。今後も厄介になるかもしれないのでよろしくお願いしますね」

 念を押して親父に自己紹介だ。

「ナオフミねえ。まあお得意様になってくれるなら良い話だ。よろしくな、アンちゃん!」

 まったく、元気な店主だ。マインが親父さんに尋ねる。

「ねえ親父さん。何か良い装備無い?」

「そうだなぁ。予算はどのくらいだ?」

「そうねぇ……」

 マインが俺を値踏みするように見る。

「銀貨二五〇枚の範囲かしら」

 所持銀貨八〇〇枚の中で二五〇枚……宿代とか仲間を雇い入れる代金を算出すると相場なのかな。

「お? それくらいとなると、この辺りか」

 親父さんはカウンターから乗り出し、店に飾られている武器を数本持って来る。

「アンちゃん。得意な武器はあるかい?」

「いえ、今のところ無いんですよ」

「となると初心者でも扱いやすい剣辺りがオススメだね」

 数本の剣をカウンターに並べた。

「どれもブラッドクリーンコーティングが掛かってるからこの辺りがオススメかな」

「ブラッドクリーン?」

「血のりで切れ味が落ちないコーティングが掛かってるのですよ」

「へぇ……」

 そういえば俺の世界の刃物は何度も肉を切っていると切れ味が落ちるって聞いた覚えがある。

 つまり切れ味が落ちない剣って訳か。

 親父が持っている物を凝視すると、以前見た事のある模造刀よりも質感が凄い。

 中々の業物みたいだ。

「左から鉄、魔法鉄、魔法鋼鉄、銀鉄と高価になっていくが性能はお墨付きだぜ」

 これは使用している鉱石によって硬度が違うのか?

 鉄のカテゴリー武器って感じか。

「まだまだ上の武器があるけど総予算銀貨二五〇枚だとこの辺りだ」

 あれだよな。コンシューマーゲームだと最初の町の武器はあんまり良いのがそろってない感じだけど、ここは結構な品揃えがあるようだ。となるとオンラインゲームに近い世界。いや、異世界の現実なんだから普通は大きな国の武器屋だと品揃えも良くなるか。

「鉄の剣かぁ……」

 徐に剣の柄を握り締める。あ、やっぱずっしりと重量がある。

 持ってる盾が軽過ぎて気にならなかったけど、武器は結構重いんだな。

 この武器で出会う魔物と戦うのかぁ……。

「イッ!」

 突然強い電撃を受けたかのように持っていた鉄の剣が弾かれて飛ぶ。

「お?」

 親父さんとマインが不思議そうな顔で俺と剣を交互に見る。

「なんだ?」

 俺は落としてしまった剣を拾う。先ほどのような変な気配は無い。

 なんだったんだ?

 そう思いながら考えを戻す。すると、またバチっと痛みが走る。

「イッテ!」

 だから何なんだよ、悪戯かと俺は親父をにらむが、親父は首を横に振る。マインが何かするはずも無いけど、俺はマインにも顔を向ける。

「突然弾かれたように見えましたよ?」

 そんな馬鹿な。ありえないと思いながら俺は自分の手の平を凝視する。

 すると、視界に文字が浮かび上がってきた。

『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に反しました』

 なんだコレは?

 急いでヘルプを呼び出して説明文を探す。

 あった!

『勇者は自分の所持する伝説武器以外を戦闘の意思を持って使用する事が出来ない』

 なんだって!? つまり俺は盾以外を戦闘で使うことが出来ないってのか!?

 盾だけで戦うなんてどんなクソゲーだよ。

「えっと、どうも俺はこの盾の所為で武器を戦いで使えないらしい」

 苦笑いを浮かべつつ、俺は顔を上げる。

「どんな原理なんだ? 少し見せてくれないか?」

 俺は親父に盾を持つ手を向けて見せる。外れないのだから仕方が無い。

 親父が小声で何かをつぶやくと、盾に向かって小さい光の玉が飛んでいって弾けた。

「ふむ、一見するとスモールシールドだが、何かおかしいな……」

「あ、分かります?」

 ステータス魔法にもスモールシールドと記載されていた。

(伝説武器)と言う項目が付いてるけど。

「真ん中に核となる宝石が付いているだろ? ここに何か強力な力を感じる。鑑定の魔法で見てみたが……うまく見ることが出来なかった。呪いの類なら一発で分かるんだがな」

 見終わった親父は目線を俺に向けてトレードマークのひげでる。

「面白いものを見せてもらったぜ、じゃあ防具でも買うかい?」

「お願いします」

「銀貨二五〇枚の範囲で武器防具を揃えさせるつもりだったが、それなら鎧だな」

 盾は既に持っているわけだし、結果的にそうなるよな。

 親父さんは店に展示されている鎧を何個か指差す。

「フルプレートは動きが鈍くなるから冒険向きじゃねえな、精々くさりかたびらが入門者向けだろう」

 と言われて、俺はくさりかたびらに手を伸ばす。ジャラジャラと音が鳴る鎖でつながれた服。

 そのまんまだよな。防御は見たとおりって所か?

 ん? アイコンが開いた。

 くさりかたびら 防御力アップ 斬撃耐性(小)

 ふむふむ、剣の時に項目が出てこなかったのは装備できないからだな。

「あれの値段はどれくらいなんですか?」

 マインが店主に尋ねる。

「おまけして銀貨一二〇枚だな」

「買取だと?」

「ん? そうだなぁ……新古品なら銀貨一〇〇枚で買う所だ」

「どうしたの?」

「盾の勇者様が成長して不必要になった場合の買取額を聞いていたのですよ」

 なるほどなぁ……俺もLvだし成長したらもっと強力な装備が着用できるだろう。これより上の装備もあるようだけど、現状だとこれが一番効果が高いみたいだ。

「じゃあこれをください」

「まいど! ついでにインナーをオマケしておくぜ!」

 店主の気前のよさに俺は感謝の言葉もなかった。銀貨一二〇枚を渡し、くさりかたびらを手に入れた。

「ここで着ていくかい?」

「はい」

「じゃあ、こっちだ」

 更衣室に案内され、俺は渡されたインナーとくさりかたびらに着替えた。

 元々来ていた服は店主がくれた袋に入れる。

「お、少しはそれらしく見えるカッコになったじゃねえか」

「ありがとうございます」

 褒め言葉なんだよなコレ。

「それじゃあそろそろ戦いに行きましょうか勇者様」

「おう!」

 冒険者っぽい格好になった俺は気持ち高らかにマインと一緒に店を出るのだった。

 それから俺達は城門の方に歩いて、城門を潜り抜ける。

 途中、国の騎士っぽい見張りが会釈してくれたので俺も元気良く返した。

 ワクワクの冒険の始まりだ。

五話 盾の現実

 城門を抜けると見渡す限り草原が続いていた。

 一応石畳の道があるが、一歩街道から外れるとまでも草原が続いているのではと思うくらいに、緑で覆いつくされている。

 こんなのは北海道へ旅行に行った時以来だ。

 とはいえ空の高さや地平線が見えるとなると初体験。

 この程度ではしゃいでは勇者として示しが付かないので平静を装う。

「では勇者様、このあたりに生息する弱い魔物を相手にウォーミングアップを図りましょうか」

「そうだね。俺も戦闘は初体験なんだ。どれくらい戦えるか頑張ってみるよ」

「頑張ってくださいね」

「え? マインは戦ってくれないの?」

「私が戦う前に勇者様の実力を測りませんと」

「そ、そうだね」

 考えてみれば経験はマインの方が上だろうし、現在の俺がどれだけできるのかわからない。

 まずはマインが安全だと思う魔物を相手に戦ってみよう。

 しばらく草原をとぼとぼと歩いていると、なにやら目立つオレンジ色の風船みたいなものが見えてきた。

「勇者様、居ました。あそこに居るのはオレンジバルーン……とても弱い魔物ですが好戦的です」

 なんかひどい名前だな。オレンジ色の風船だからオレンジバルーンか?

「ガア!」

 凶暴な声と二つの凶悪そうな目が敵意を持っているのを感じさせる。

 畑にある、鳥避けの風船みたいな奴がこちらに気付いて襲い掛かってくる。

「頑張ってください勇者様!」

「おう!」

 マインの前だし、カッコいい所を見せてやる。

 俺は盾を右手に持って鈍器の要領でオレンジバルーンに向けて殴り掛かった。

「おりゃ!」

 ボヨンッと殴るとすぐに跳ね返った。意外と弾力がある!

 簡単に割れると思ったのに……。

 体勢を立て直したオレンジバルーンが牙をいて俺にみ付いてきた。

「い!」

 噛み付かれた箇所から硬い音が聞こえる。

 不思議な事に痛くもかゆくも無い。オレンジバルーンはまだ俺の腕に噛み付いているがまったく効果が無いようだ。

 ふんわりと盾から淡い防壁が出て守ってくれているような気がする。おそらく盾の力なのだろう。

 俺は無言のままマインの方を見る。

「勇者様頑張って!」

 ……ダメージは受けない代わりに与えられもしないが仕方ない。

「オラオラオラオラオラ!」

 格闘家の伝承者みたいに俺はオレンジバルーンを素手で殴りつけ続けた。

 それから五分後……。

 パァン!

 軽快な音を立てて、オレンジバルーンは弾けた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 ピコーンと音がしてEXPという数字が見える。

 経験値が入ったと言う訳か。

 しっかし、これだけ戦ってとは……先が思いやられるな。

 っていうか硬いよコイツ。素手じゃ限界があるって。

「良く頑張りましたね勇者様」

 マインが拍手してくれているけど、なんていうかむなしい。

「ん?」

 なにやら足音が聞こえてくる。振り返るとれんとその仲間が小走りで走っていくのが見える。話しかけようかと思ったけど、真面目な表情で走る連中に声を掛ける隙が無い。

 あ、錬の前にオレンジバルーンが三匹現れた。

 だが。

 錬が剣を一振りするとオレンジバルーンはパァンと音を立てて割れる。

 一撃!? おいおい……どんだけ攻撃力に差があるんだよ。

「……」

 放心している俺の顔の前にマインが何度も手をかざす。

「大丈夫ですよ。勇者様には勇者様の戦い方があるのですから」

「……ありがとう」

 戦闘を初体験した限りだと、五分間もオレンジバルーンに食いつかれていたのに無傷な俺は相当防御力が高いようだ。

 戦利品のオレンジバルーンの残骸を拾った。するとピコーンと盾から音が聞こえる。

 徐に盾に近づけると淡い光となって吸い込まれた。

 GET、オレンジバルーン風船。

 そんな文字が浮かび上がり、ウェポンブックが点灯する。中を確認するとオレンジスモールシールドというアイコンが出ていた。まだ変化させるには足りないが、必要材料であるらしい。

「これが伝説の武器の力ですか」

「うん。変化させるには一定の物を吸い込ませると良いみたいだね」

「なるほど」

「ちなみにさっきの戦利品ってどれくらいの値段で取引されているの?」

「銅貨一枚行ったら良いくらいですね」

「……何枚集まれば銀貨一枚?」

「銅貨の場合は一〇〇枚です」

 まあ、錬の様子を見ると相当弱い魔物みたいだし、しょうがないか。

「じゃあ次はマインだね」

「まあ、そうなりますね」

 と言っているうちに、オレンジバルーンが二匹俺達の方へ近づいてきていた。

 マインが腰から抜いた剣を構えて二振りすると、パァンという音と共にオレンジバルーンは弾けた。

 うわぁ……俺って弱すぎ……?

 とにかく、俺が、というか盾が弱いのは存分に分かった。

 こうなったらマインに戦ってもらった方が効率が良いだろう。

「じゃあ、マインが攻撃、俺が守るから行ける所まで行こうか」

「はい」

 マインは二つ返事でうなずいてくれた。

 その後、俺達は日が傾く少し前まで草原を歩き、遭遇するオレンジバルーンとその色違いのイエローバルーンを割る作業を続けたのだった。

「もう少し進むと少し強力な魔物が出てくるのですが、そろそろ城に戻らないと日が暮れますね」

「うーん。もう少し戦っておきたかったんだけどなぁ……」

 ダメージ受けないし、バルーンの攻撃を守るのは簡単だから大丈夫かと思うんだけど。

「今日は早めに帰って、もう一度武器屋をのぞきましょうよ。私の装備品を買った方が明日には今日より先に行けますよ」

「……そういえば、そうだね」

 Lvアップも、もう少し先のようだし、今日はコレくらいにしておいた方が良いか。ちなみに盾に吸わせる量は満たしたから、風船は手元に残っている。

 後は……Lvアップすると盾は変化出来るみたいだな。

 とにかく、一日目の冒険を切り上げ、俺達は城下町の方へ戻るのだった。

六話 地雷という名の裏切り

 夕方、城下町に戻った俺達は武器屋にまた顔を出した。

「お、盾のアンちゃんじゃないか。他の勇者達も顔を出してたぜ」

 みんなこの店で買ったのか。

 ホクホク顔の親父が俺達を出迎える。

「そうだ。これってで買い取ってくれる?」

 オレンジバルーン風船を親父に見せると親父は店の外の方を指差した。

「魔物の素材買取の店がある。そこへ持ち込めば大抵の物は買い取ってくれるぜ」

「ありがとう」

「で、次は何の用で来たんだ?」

「ああ、マイン……仲間の装備を買おうと決めてさ」

 俺がマインに視線を向けるとマインは店内の装備をジッと凝視していた。

「予算額は?」

 手元に残っているのは銀貨六八〇枚。そこからどれだけの装備品を買うと良いか。

「マイン、どれくらいにしておいた方が良い?」

「……」

 マインはとても真面目な表情で装備品を見比べている。

 まるで俺の言葉など耳に入っていない。宿代がどれくらいか分からないけど、一ヶ月の生活費は残しておかなきゃいけないだろうしなぁ。

「お連れさんの装備ねぇ……確かに良いものを着させた方が強くなれるだろうさ」

「はい」

 どうも俺は攻撃力とは無縁のようだし、マインに装備の代金を集中させる方が良さそうだ。

「割と値が張りそうだから雑談しながら今のうちに値引きしてやる」

「お、面白いことを抜かす勇者様だ」

「八割引!」

「幾らなんでもひどすぎる! 二割増」

「増えてるじゃねえか! 七割九分」

「商品を見てねぇで値切る野郎には倍額でも惜しいぜ!」

「ふ、抜かせ! 九割引!」

「チッ! 二割一分増!」

「だから増やすな! 十割引」

「それはタダってんだアンちゃん! しょうがねえ五分引き」

「少ない! 九割二分

 それからしばらくして、マインはデザインが可愛らしいよろいと妙に高そうな金属が使われている剣を持ってきた。

「勇者様、私はこの辺りが良いです」

「親父、合計どれくらいの品? 六割引」

「オマケして銀貨四八〇枚でさぁ、これ以上は負けられねえ五割九分だ」

 マインが決める前に行っていた値切り交渉が身を結び、値段は下げることが出来た。

 でも、さすがに残金、銀貨二〇〇枚は厳しくないか?

「マイン……もうちょっと妥協できないか? 俺は宿代とか生活費がどれだけ掛かるか分からないんだ」

「大丈夫ですよ勇者様、私が強くなればそれだけ魔物を倒したときの戦利品でどうにか出来ます」

 目をキラキラ輝かせ、俺の腕に胸を当ててマインはおねだりをしてくる。

 さすがは異世界召喚、王道展開。

 今まで女の子にモテた事が無い俺ですらこんなにかわいい子が隣にいる。

 うん。マインの言う通り攻撃力が重要かもしれないな。

「しょ、しょうがないなぁ……」

 銀貨二〇〇枚、考えてみればれんもとやすいつきは最低三人は連れているのだ。活動費は元より装備品にだって金を回させるのがやっとだろう。

 ともすれば二〇〇枚あれば一ヶ月生活するには十分である可能性は高い。仲間を募集するのはLvアップして稼ぎが軌道に乗ってからでも悪くは無いかも。

「よし、親父、頼んだぞ」

「ありがとうございやした。まったく、とんでもねぇ勇者様だ」

「はは、商売は割と好きなんでな」

 ネットゲームでも俺は金を稼ぐのが好きだった。オークションイベントでも出来る限り安く買い、最も高く売るを繰り返す手腕はあると思う。それに人間相手の値切りほど簡単なものは無いだろう。分かりやすい金額が目の前にあるのだから。

「ありがとう勇者様」

 ご機嫌なマインが俺の手にキスをした。

 これは好感度アップ! 明日からの冒険が楽になる。

 装備を新調したマインと一緒に俺は町の宿屋に顔を出した。

 一泊一人銅貨三十枚か……。

「二部屋で」

 と、マインが言った。

「一部屋じゃないの?」

「勇者様……」

 無言の圧力をマインが出してくる。

 う……しょうがない。

「じゃあ二部屋で」

「はいはい。ごひいきにお願いしますね」

 宿屋の店主がみ手をしながら俺達が泊まる部屋を教えてくれた。値段基準を頭にたたき込みながら、宿屋に並列している酒場で晩食を取る。別料金の食事銅貨五枚×二を注文した。

「そういえば……今日、俺達が戦っていた草原はここだよな」

 俺は帰りがけに購入した地図を広げてマインに聞いた。

 地図にはこの辺りの地形が記されている。錬や元康に聞いた方が良いのかもしれないが、昨日の態度から見るに教えてくれそうに無い。あの手の連中は他者を出し抜くのにためらいが無いのだ。俺が完全に無知なのを良いことに強力な魔物の巣へ導かれてはたまったものではない。

 だからその辺りを知っていそうなマインに聞く。

「はい。そうですよ」

「昼間の話から推察するに、草原を抜けた森辺りが次の狩場か?」

 地図を広げるとこの国の地形が大まかに分かる。

 基本的に城を中心に草原が広がり、そこから森へ続く道と山へ続く道、他に川へ突き当たる場所や村に続く道があるのだ。

 あんまり大きな地図ではないので、近くの村もそんなに分からない。

 森の先に何があるかこの地図では予想が出来ないが、これから行く道と適性の魔物がいるのを予測しておかなくては戦いようが無い。

「ええ、この地図には載っていませんが私達が行こうとしているのは森を抜けたラファン村です」

「ふむ……そうか」

「ラファン村を抜けた先辺りに初心者冒険者用のダンジョンがあるんですよ」

「ダンジョン……」

 夢が広がるな! ネトゲ基準だとモンスター狩りしかしないけど。

「あまり実入りは無いでしょうが勇者様がLvを上げるには良い場所かと思います」

「なるほどね」

「装備も新調しましたし、勇者様の防御力にもよりますが楽勝です」

「そうか、ありがとう。参考になったよ」

「いえいえ、ところで勇者様? ワインは飲まないのですか?」

 酒場故に酒が料理と一緒に運ばれてきたのだが、俺はまったく手をつけていなかった。

「ああ、俺はあんまり酒が好きじゃなくてな」

 飲めない訳じゃない。むしろほとんど酔わないくらい酒に強い体質だ。

 だが、大学のサークルとかの飲み会で、みんなへべれけになっている中、飲んでいるのに酔わず、シラフでいるうちに嫌いになった。

「そうなんですか、でも一杯くらいなら」

「悪いね。本当、嫌いなんだ」

「でも……」

「ごめんな」

「そう、ですか」

 残念そうにマインはワインを引っ込めた。

「まあ、明日からの方針を相談できて助かったよ。今日は早めに休むから」

「はい、また明日」

 食事を終えた俺は騒がしい酒場を後にして割り当てられた部屋に戻る。

 さすがに寝るときまでくさりかたびらを着けているわけにはいかない。

 脱いで椅子に立てかけておく。

「……」

 銀貨の入った袋を備え付けのテーブルに置いた。

 残り銀貨二〇〇枚か……先払いの宿だから一九九枚とちょっと。少し心もとない気がして落ち着かないのは俺に貧乏人根性でも染み付いているからだろうか。

 観光地に行く日本人の如く、俺は銀貨を三十枚ほど盾の中に隠す。

 うん。なんとなく安心したような気がしてきた。

 今日は色々あったなぁ。

 魔物を倒す手ごたえってあんな感じなのか。風船を割っていただけとしか言い様が無いけど。

 ベッドに腰掛け、そのまま横になる。

 見慣れない天井。昨日もそうだったけど、俺は異世界に来たんだ。

 ワクワクが収まらない。これから俺の輝かしい日々が幕を開けていくんだ。そりゃあ他の勇者仲間には出遅れているけれど、俺には俺の道がある。何も最強を目指す必要は無い。出来る事をやっていけばいい。

 なんだか……眠くなって来たな。酒場の方から楽しげな声が聞こえてくる。

 元康っぽい声や樹らしき奴が雑談をしながら部屋の前を通り過ぎたような気がした。あいつらもここを宿にしたのかな。

 室内用のランプに手を伸ばして消す。少し早いけど、寝るとしよう……。

 チャリチャリ……。

 ん~……なんだぁ、今の音? 酒場の奴等、まだ騒いでいるのか?

 むにゃ……。

 ゴソゴソ…………服が引っぱられる。

「フフフ……馬鹿な男、だまされちゃって……明日が楽しみだわ」

 誰だろう? 夢か……?

「ん?」

 寒いなぁ……。

 陽光が顔を照らし、朝であるのを俺に知らせる。寝ぼけまなこを凝らしながら起き上がって窓の外に目を向ける。思いのほか寝入ってしまっていたらしい。太陽がそれなりに高くなってきている。

 体内時計によると、九時位かな。

「あれ?」

 何時の間にか服装がインナーだけになっていた。無意識に脱いだかな?

 まあ、いいや。

 外の景色に目を移すと、当たり前のように人々が通りを行き交っている。

 昼食の準備にと定食屋や出店が大忙しで材料を調理している光景や、馬車がトコトコと道を進んでいる光景を見ると、何度だって俺は夢心地の気分になることができた。

 ああ、本当に異世界とは素晴らしい。

 城下町を走る馬車には複数の種類があるらしい。鳥はダチョウのような、某ゲームで言う所のチョ○ボみたいな生き物だ。どちらかといえば馬の方が高級品のようだ。時々、牛が引いていたりと、なんとも中世チックで素晴らしいな。

「さて、そろそろ飯にでもして旅立つか」

 脱いだはずの服を探してベッドを調べる。

 ……おかしいな。無いぞ?

 椅子に立てかけていたくさりかたびらも……何処にも無い。

 テーブルに置いた銀貨を入れた袋も無くなっている! しかも予備の着替えにと残しておいた俺の私服さえ無い!

「な……」

 まさか! 枕荒らしか!? 寝ている最中に泥棒を働くとは笑止千万だ!

 この宿……警備がまったく行き届いていないとは何事か!

 とにかく、仲間であるマインに急いで伝えないと!

 バンッ! と俺は扉を開けて、隣で寝ているはずのマインの部屋の戸を叩く。

「マイン! 大変だ! 俺達の金と俺の装備が!」

 ドンドンドン!

 何度叩いても一向にマインが出る気配が無い。

 ザッザッザ!

 なにやら騒がしい足音が近づいてくる。見ると城の騎士達が俺の方へやってきた。コレは闇夜にちょうちん。枕荒らしに遭った事を説明して、犯人を捕まえてもらおう。

 よりによって勇者の寝首をいて泥棒とはとんだ馬鹿が居たものだ。

「あなた達は城の騎士だったよな、ちょっと話を聞いてくれないか!」

 俺は騎士の方を向いて懸命にアピールする。

 マイン、早く部屋から出てきてくれ、今大変な事が起こってるんだ。

「盾の勇者だな!」

「そう、だけど」

 なんだよ。妙にてきがいしんを感じる応答だな。

「王様から貴様に召集命令が下った。ご同行願おう」

「召集命令? いや、それよりも俺、枕荒らしに遭っちまったんだ。犯人を

「さあ、さっさと付いて来い!」

 ぐいっと力強く引っ張られる。

「痛いって! 話を聞けよ」

 騎士達は俺の腕を掴むと半ば無理やり連行していく。

 ほとんど下着だっていうのになんだよ。この扱いは!

「おい、マイン! 早く

 騎士達は俺の事情を聞かず、俺はマインを宿屋に置いて城へ強制送還された。

 先ほどの馬車は俺を連れて行くために来た物であったらしい。

 こうして俺は訳の解らないまま、まるで犯罪者でも見るかの様な視線を受け続けた。

七話 えんざい

 カッコッカッコッと揺られ、しばらくするとインナーのまま俺は城の前まで連れて行かれた。ついで、騎士達が俺をやりで拘束したままえっけんの間まで案内する。

 にはなにやら不機嫌そうな王様と大臣。

 そして……。

「マイン!」

 れんもとやすいつき、その他の仲間も集まっている。俺が声を掛けるとマインは元康の後ろに隠れて、こちらをにらんできた。

「な、なんだよ。その態度」

 まるで悪人を見る様な目でみんなが俺を睨んでいる。

「本当に身に覚えが無いのか?」

 元康が仁王立ちで俺に詰問してくる。

 一体なんだってんだ。

「身に覚えってなんだよ……って、あー!」

 元康の奴、俺のくさりかたびらを着ていやがる。

「お前が枕荒らしだったのか!」

「誰が枕荒らしだ! お前が外道だったとは思いもしなかったぞ!」

「外道? 何のことだ?」

 俺の返答に、謁見の間はまるで裁判所のような空気を醸し出した。

「して、盾の勇者の罪状は?」

「罪状? 何のことだ?」

「うぐ……ひぐ……盾の勇者様はお酒に酔った勢いで突然、私の部屋に入ってきたかと思ったら無理やり押し倒してきて」

「は?」

「盾の勇者様は『まだ夜は明けてねえぜ』と言って私に迫り、無理やり服を脱がそうとして」

 元康の後ろに居たマインが泣きながら俺を指差して非難する。

「私、怖くなって……叫び声を上げながら命からがら部屋を出てモトヤス様に助けを求めたんです」

「え?」

 何のことだ?

 昨日の晩、俺はマインと別れた後はぐっすり眠っていて身に覚えがまったく無い。

 泣きじゃくるマインに困惑するしかなかった。

「何言ってんだ? 昨日、飯を食い終わった後は部屋で寝てただけだぞ」

うそを吐きやがって、じゃあなんでマインはこんなに泣いてるんだよ」

お前がマインをかばってるんだ? というかそのくさりかたびらはで手に入れた?」

 昨日、初めて会った仲だろう?

「ああ、昨日、一人で飲んでいるマインと酒場で出会ってな、しばらく飲み交わしていると、マインが俺にプレゼントってこのくさりかたびらをくれたんだ」

「は?」

 どうみてもそれは俺のだろう。

 もちろん、マインのポケットマネーで購入した私物の可能性はゼロでは無いが、俺のくさりかたびらが無くなって元康が持ってたら誰だって疑うだろう。

 元康では話にならない。ここは王様に進言するとしよう。

「そうだ! 王様! 俺、枕荒らしに、寝込みに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました! どうか犯人を捕まえてください」

「黙れ外道!」

 王様は俺の進言を無視して言い放った。

「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」

「だから誤解だって言ってるじゃないですか! 俺はやってない!」

「何かすると最初に会った時から思っておった! やはり尻尾を出したなこの悪魔め!」

「あ、悪魔!? なんでそうなるんだよ!」

「やはりそうでしたか、なんとなく僕達とは違う精神の人だと思っていたんですよね」

「そうだな。まさか、こんな犯罪に手を出すような奴だとは……自分を特権階級だと勘違いしたんだな」

「お前は主人公なんかじゃない。マナーを考えろ!」

 この場にいる連中全てが俺を黒だと断定して話を進めている。

 ドッと自分の血が上がっていくのを感じる。

 何だコレ? 何だよコレ? 何なんだよコレ!?

 身に覚えの無い事で何故俺はこんなにも罵倒されなきゃいけないんだ?

 口をパクパクとしながらマインに目を向けると誰からも見られていないと踏んだのか、マインは俺に舌を出してあっかんベーっとする。

 ここで俺は悟った。

 そして元康を睨みつける。腹の奥からどす黒い感情が噴出してくるのを感じる。

「お前! 支度金と装備が目当てで有らぬ罪を擦り付けたんだな!」

 元康を指差し、こんなに大きく声が出るのだと自分でもびっくりする音量で言葉を発した。

盾の勇者の成り上がり 挿絵3

「はっ! ごうかん魔が何を言ってやがる」

 マインを俺から見えないように庇いながら、元康は恭しく被害者を助けたヒーローをアピールする。

「ふざけんじゃねえ! どうせ最初から俺の金が目当てだったんだろ、仲間の装備を行き渡らせる為に打ち合わせしたんだ!」

 元康の仲間になりたかったマインにこうささやいたんだ。俺は負け組の盾だから、マインに良いものを買い与える。そして買い与えられた後、持っている金と一緒に持ち物を奪い、被害者面で城に報告。俺を抹殺するつもりだったんだな。

 ……やってくれるじゃねえか。

 そもそもだ。マインは俺の事をずっと勇者様としか呼ばないくせに、元康の事は名前で呼んでいる。これが証拠でなくて何が証拠なんだ。

 異世界に勇者は一人だけで十分ってか?

「異世界に来てまで仲間にこんな真似をするなんてクズだな」

「そうですね。僕も同情の余地は無いと思います」

 錬と樹が俺を断罪するのに躊躇ためらいが無い。

 そうか……コイツ等、最初からグルだったんだな。盾だから、弱いから、強くないから俺をあしにして、少しでも自分が有利になるように事を運びたいと思ってたんだ。

 汚い。

 何処までも卑怯ひきょうで最低な連中なんだ。

 考えれば最初からこの国のやつも俺を信じようとすらしない。

 知ったことか! なんでこんな連中を守ってやらなきゃいけない。

 滅んじまえ! こんな世界。

「……いいぜ、もうどうでもいい。さっさと俺を元の世界に返せば良いだろ? で、新しい盾の勇者でも召喚しろ!」

 異世界? ハ!

 なんで異世界に来てまでこんな気持ちにならなきゃいけないんだよ!

「都合が悪くなったら逃げるのか? 最低だな」

「そうですね。自分の責務をちゃんと果たさず、女性と無理やり関係を結ぼうとは……」

「帰れ帰れ! こんなことする奴を勇者仲間にしてられねえ!」

 俺は錬、元康、樹を殺す意思をこめて睨みつけた。

 本当は楽しい異世界になるはずだったんだ。なのにコイツ等ので台無しだ。

「さあ! さっさと元の世界に戻せ!」

 すると王様は腕を組んでうなった。

「こんな事をする勇者など即刻送還したい所だが、波のしゅうえんまで方法がない。新たに召喚するには全ての四聖勇者が死亡した時のみだと研究者は語っておる」

「……な、んだって」

「そんな……」

「う、嘘だろ……」

 今更三人の勇者様はうろたえてやがる。

 元の世界に、帰る術が無い?

「このままじゃ帰れないだと!」

 ふざけやがって!

までつかんでんだコラ!」

 俺は乱暴に騎士の拘束を剥がす。

「こら! 抵抗する気か」

「暴れねえよ!」

 騎士の一人が俺を殴る。

 ガンっと良い音がした。けれど痛くもかゆくも無い。どうも騎士の方はそうではなかったようで殴った腕を握って痛みを堪えている。

「で? 王様、俺に対する罰は何だよ?」

 腕を振り回し、しびれを治してから尋ねる。

「……今のところ波に対する対抗手段として存在しておるから罰は与えない。だが……既にお前の罪は国民に知れ渡っている。それが罰だ。我が国で雇用職に就けると思うなよ」

「あーあー、ありがたいお言葉デスネー!」

 つまり冒険者としてLvを上げて波に備えろって訳ね。

「一ヵ月後の波のときには召集する。例え罪人でも貴様は盾の勇者なのだ。役目から逃れられん」

「分かってるよ! 俺は弱いんでね。時間が惜しいんだよ!」

 チャリ……。

 あ、そうだった。念には念をと盾に隠して置いたんだったな。

「ホラよ! これが欲しかったんだろ!」

 最後に残った俺の全財産である銀貨三十枚を取り出して元康の顔面に投げつけてやった。

「うわ! 何するんだ、お前!」

 元康の罵倒が聞こえてくるが知ったことではない。

 城を出ると道行く住民全てが俺の方を見てヒソヒソと内緒話をしている。

 ホント、うわさ話の伝達が早いことで。あきれて物も言えない。

 もう、全てが醜く見えて仕方が無い。

 こうして俺は信頼と金……全てを失い、最悪の形で冒険の幕を開けたのだった。

八話 ちた名声

 あれから一週間の時が流れた。俺は未だに城の近辺を拠点に活動している。

「おい、盾のアンちゃん」

「ああ!?

 城を飛び出し、インナー姿という半裸状態で町を歩いていると武器屋の親父に呼び止められた。

 ちょうど武器屋の前を歩いていたというのも理由だが、何の用だと言うんだ。

「聞いたぜ、仲間をごうかんしようとしたんだってな、一発殴らせろ」

 俺の話など最初から聞くつもりの無いのか親父が怒りをあらわにして握り拳を作っている。

「てめえもか!」

 どいつもコイツも俺の話を聞くつもりがありやしねえ。そりゃあ、俺はこの国、この世界からしたら異世界人で常識には疎いのかもしれないが、間違っても嫌がる女を犯すような真似は絶対にしない。

 あー……なんだ。武器屋の親父があのクソ女の顔に見えてきた。

 今なら殴り殺せそうだ。俺も強く拳を握ってにらみつける。

「……お前……」

「なんだよ。殴るんじゃなかったのか?」

 親父は握り拳を緩めて警戒を解く。

「い、いや……やめておく」

「そうか、命拾いしたな」

 今ならどんなに攻撃力が低くても満足するまで人を殴れる自信がある。

 しかし、無意味に殴るのもなんだと自分に言い聞かせ、これからの活動のために金稼ぎしようと思う。バルーンでも殴れば少しは気が晴れるだろう。

「ちょっと待ちな!」

「なんだよ!?

 城門を抜けて草原に行こうとする俺を、武器屋の親父がまた呼び止めた。振り返ると小さな袋を投げ渡される。

「そんなカッコじゃめられるぜ。せめてものせんべつだ」

 袋の中を確認すると、少し煤けたマントと麻で作られた安物の服が入っていた。

「……ちなみに幾らだ?」

「銅貨五枚って所だな。在庫処分品だ」

「……分かった。後で返しに来る」

 下着で動き回るのもさすがにどうかと思っていた所だ。

「ちゃんと帰って来いよ」

「あーはいはい」

 俺はマントを羽織りながら、服を着て、草原へ出る。それから俺は草原を拠点にバルーン系を討伐していった。

「オラオラオラオラオラオラオラ!」

 一匹五分掛かるが、幾らみ付かれてもダメージを受けないので困る事は無い。

 憂さ晴らしに一日中戦って、ある程度のバルーン風船を手に入れた。

 Lvアップ!

 Lvになりました。

 オレンジスモールシールド、イエロースモールシールドの条件が解放されます!

 そして、念には念をで仕込みや下調べを日中に行う。

 夕方頃になり、俺は空腹を覚えた。渋々、城下町に戻り、魔物の素材を買い取る商人の店に入った。

 小太りの商人が俺の顔を見るなりへらへらと笑っていやがる。

 ……思いっきり足元を見るつもりだな。見るだけで分かる。

 先客が居て、色々な素材を売っていく。

 その中に俺が売ろうと思っているバルーン風船があった。

「そうですねぇ……こちらの品は二個で銅貨一枚でどうでしょう」

 バルーン風船を指差して買取額を査定している。

 二個で銅貨一枚か……。

「頼む」

「ありがとうございました」

 客が去り、次は俺の番になった。

「おう。魔物の素材を持ってきたんだが買い取ってくれ」

「ようこそいらっしゃいました」

 語尾に「ヘヘヘ」と笑っているのが聞こえないとでも思ったのか。

「そうですねぇ。バルーン風船ですねぇ。十個で銅貨一枚ではどうでしょうか?」

 五分の一! どれだけ足元を見やがる。

「さっきの奴には二個で銅貨一枚って言ってなかったか?」

「そうでしたかね? 記憶にありませんが?」

 何分、うちも商売でしてねぇ……等と言い訳を続けている。

「ふーん。じゃあさ」

 商人の胸倉をつかみ、引き寄せる。

「ぐ、な、何を

「コイツも買い取ってくれよ。生きが良いからさ」

 俺はマントの下に隠れて腕に噛み付いているオレンジバルーンを引き剥がして商人の鼻先に食いつかせる。

「ギャアアアアアアアアアアアアア!」

 転げまわる商人の顔に引っ付いているバルーンを引き剥がしてやり、商人の首根っこを掴む。

「このままお前を草原まで引きずっていって、買い取ってもらおうか?」

 マントの下に隠していた五匹のバルーンを見せ付ける。

 そう、幾ら噛み付かれても痛くもかゆくも無いなら、引き剥がして誰かに引っ付けることが出来るのではないかとひらめいたのだ。

 我ながら名案であり、こうして交渉の役に立っている。

 如何せん、俺には攻撃力が無いので、脅しが出来ないしな。

 コイツも理解するだろう。俺がそれを実行した時、自分が骨すら残らずバルーンの餌食になることを。

「高額で買えとは言わんよ。でも相場で買取してもらわないと話にならないからさ」

「こんな事をして国が

「底値更新するような値で冒険者に吹っかけた商人の末路はどうなんだ?」

 そう、この手の商人は信用が第一、俺ではなく、普通の冒険者相手にこんなをしたら殴られかねない。しかもだ。客が来なくなるオプション付きだ。

「ぐ……」

 睨み殺さんとばかりに恨みがましい目を向けていた商人だったが、諦めたのか力を抜く。

「……分かりました」

「ああ、下手に吹っかけたりせず、俺のお得意様になってくれるのなら相場より少しなら差し引いても良い」

「正直な所だと断りたい所ですが、買取品と金に罪はありません。良いでしょう」

 諦めの悪い人物だと理解したのか、買取商は俺のバルーンを相場よりちょっとだけ少なめの額で買い取ってくれた。

「ああ、俺のうわさを広めておけよ。ふざけたことを抜かす商人にはバルーンの刑だ」

「はいはい。まったく、とんだ客だよコンチクショウ!」

 こうして今日の稼ぎを手に入れた俺はその足で武器屋の親父に服とマントの代金を払い、飯屋で晩飯にありついた。

 ただ、かまったく味がしない。

 味のしなくなったガムを食べている様な感覚に近い。最初はふざけているのかと思ったが俺の味覚がどうかしているようだ。

 宿? 金が無いから草原で野宿だよ! バルーンに噛み付かれていたって痛くも無いから問題ない。

 次の日の朝、目が覚めると鳥葬みたいにバルーンに食いつかれていたけど、ストレス発散に殴り割りをしてやった。

 朝から小銭ゲットだぜ!

 それからは死に物狂いで戦わずとも金の稼ぎ方を覚えた。

 まず、戦利品のバルーン以外にも売れる品を見つける。

 それは草原に群生している薬草である。

 薬屋の卸問屋で売っている薬草を見て覚え、買取をしている店を見つける。

 後は草原で似た草を摘んでいると、盾が反応した。採取した薬草を盾に吸わせる。

 リーフシールドの条件が解放されました。

 そういえばウェポンブックを見ていなかったな。

 俺はウェポンブックを広げて点灯している盾を確認する。

 スモールシールド

 能力解放! 防御力上昇しました!

 オレンジスモールシールド

 能力未解放……装備ボーナス、防御力

 イエロースモールシールド

 能力未解放……装備ボーナス、防御力

 リーフシールド

 能力未解放……装備ボーナス、採取技能

 ヘルプで再確認する。

『武器の変化と能力解放』

 武器の変化とは、今装備している伝説武器を別の形状へ変える事を指します。

 武器に手をかざし、心の中で変えたい武器名を思えば変化させることが出来ます。

 能力解放とはその武器を使用し、一定の熟練を積む事によって所持者に永続的な装備ボーナスを授ける事です。

『装備ボーナス』

 装備ボーナスとはその武器に変化している間に使うことの出来る付与能力です。

 例えばエアストバッシュが装備ボーナスに付与されている武器を装備している間はエアストバッシュを使用する事が出来ます。

 攻撃力と付いている武器の場合は装備している武器にの攻撃力追加付与が可能な物です。

 なるほど、つまり能力解放を行うことによって、別の装備にしても付与された能力を所持者が使えるようになるという事か。

 熟練度はおそらく、長い時間、変化させていたり、敵と戦っていると貯まる値だろうな。

 までもゲームっぽい世界だ。

 ウンザリした思いを抱えつつ、リーフシールドの装備ボーナスに興味を引かれる。

 採取技能

 おそらく、薬草を採取した時に何かしらのボーナスが掛かる技能だろう。

 今、俺は金が無い。ともすればやることは一つ、どれだけ品質が良くて労力の低い物を手に入れるかに掛かっている。俺は迷わずリーフシールドに変化させた。

 シュン……という風を切るような音を立てて、俺の盾は植物で作られた緑色の草の盾に変わる。

 ……防御力の低下は無い。元々スモールシールド自体が弱すぎたのだ。

 さて、目の前に群生している薬草を摘んでみるか。

 プチ。

 良い音がして簡単に摘み取れる。

 ぱぁ……っと淡く薬草が光ったように見えた。

 採取技能

 アエロー 品質 普通→良質 傷薬の材料になる薬草

 アイコンが出て変化したのを伝えてくれる。

 へー……簡単な説明も見えるのか、思いのほか便利だな。

 その後は半ば作業のように草原をはいかいし袋に薬草を入れるだけでその日は終わった。

 ちなみに採取をしていた影響なのか、それとも変化させて時間が経過したからかリーフシールドの能力解放は直ぐに終わった。

 ついでに他の色のスモールシールドシリーズもその日の内に解放済みとなる。

 そして俺は城下町に戻り、袋を片手に薬の買取をしてもらう事にした。

「ほう……中々の品ですな。これを何処で?」

「城を出た草原だよ。知らないのか」

「ふむ……あそこでこれほどの品があるとは……もう少し質が悪いと思っていましたが……」

 等と雑談をしながら買取をしてもらう。この日の収入は銀貨一枚と銅貨五十枚だった。

 今までの収入としてはかなり多い。むしろ記録更新だ。

 晩飯のため、酒場に向かう。

 ちなみに酒場で安い飯を食っていると仲間にして欲しいと声をかけてくる奴がチラホラと出てくる。どいつもガラの悪そうな顔の奴ばかりでウンザリした。

 ……あの日から何を食べても味がしない。

 酒場で注文した飯を頬張りながら何度目かの味覚の欠落を自覚する。

「盾の勇者様ー仲間になってあげますよー」

 上から目線で偉そうに男が話しかけてくる。

 正直、相手にするのもわずらわしいのだけど、目付きが、あのクソ女と同じなので腹が立ってきた。

「じゃあ先に契約内容の確認だ」

「はぁい」

 くっ……落ち着け、ここで引き下がると何処までも着いて来るぞこの手の連中は。

「まず雇用形態は完全出来高制、意味は分かるな」

「分かりませーん」

 殴り殺したくなるなコイツ!

「冒険で得た収入をお前等に分配する方式だ。例えば銀貨百枚の収入があった場合、俺が大本を取るので最低四割頂く、後はお前等の活躍によって分配するんだ。お前だけなら俺とお前で分ける。お前が見ているだけとかならやらない。俺の裁量で渡す金額が変わる」

「なんだよソレ、あんたが全部独り占めも出来るって話じゃねえか!」

 俺の提案に男の態度がひょうへんした。

 ほら見ろ、この国の連中はこんなもんだ。

「ちゃんと活躍すれば分けるぞ? 活躍出来たらな」

「じゃあその話で良いや、装備買って行こうぜ」

「……自腹で買え、俺はお前に装備を買ってまで育てる義理は無い」

「チッ!」

 大方、俺が装備品を買ってやっても、戦いは適当にやるつもりだったんだろう。挙句の果てにどこかで逃亡して装備代をかすめる。汚いやり方だ。あのクソ女と同類だな。

「じゃあ良いよ。金せ」

「あ、こんな所にバルーンが!」

 鋭い牙の付いたバルーンを顔面に押し付けてやった。

「いでー! いでーよ!」

 酒場にバルーンが紛れ込んだと騒ぎになったけど、俺の知ったことではない。騒いでいる馬鹿に噛み付くバルーンをサッと引き剥がし、食事代を置いて店を去った。

 まったく、この世界にはまともな奴は居ないのか。どいつもコイツも人を食い物にすることしか考えてない。

 とにかく、そんな毎日を繰り返しながら少しずつ金を貯めていった。

九話 奴隷と言う名の物

 ひーふーみー……。

 二週間掛けて手に入った金額は銀貨四十枚だった。

 あのクソ勇者に投げつけた分と少しがやっと集まった訳か。

 なんだか虚しくなって来たな。というか俺の攻撃力じゃ行ける場所もたかが知れてるんだよ。

 ダメージこそ受けなかったが一度だけ森の方へ行った事があった。

 レッドバルーンだったか。

 俺が素手で殴るとカンという缶を殴るような衝撃を受けた。

 そして三十分近く殴っても一向に割れる気配が無い。いい加減ウンザリして森から去った。

 つまり、この草原に居る程度の魔物としか俺は戦うことが出来ない訳だ。ちなみに二週間でレベルはまで上がった。クソ勇者共は今頃どれだけ上がってるか知らんがな。

 レッドバルーンは未だに俺の腕にらいついたままガリガリとみ切ろうと繰り返している。

 森に行ったのは一週間前だったっけ? 少しはLvも上がったし一発殴ってみる。

 カン!

「はぁ……」

 攻撃力が足りない。

 足りないから魔物を倒せない。

 倒せないから経験値を稼げない。

 稼げないから攻撃力が足りない。

 くそっ! 嫌なループだ。酒場から草原に出るための裏路地を歩いていた。

 その日は今までと少し違う日となる。

「お困りのご様子ですな?」

「ん?」

 シルクハットに似た帽子を被り、えん服を着た、奇妙な奴が裏路地で俺を呼び止めた。メチャクチャ肥満体の眼鏡を掛けた変な紳士。そんな奇妙な奴だ。中世な世界観から逸脱しており、こいつだけ浮いている印象を受ける。ここは無視するのが良いと思い、足早に進んだ。

「人手が足りない」

 ピタリと足が止まる。俺の痛いところを的確に突く言葉だ。

「だから魔物に勝てない」

 イラっとする言葉を続ける。

「そんなあなたにお話が」

「仲間のあっせんなら間に合ってるぞ?」

 金にしか目が無いクズを養う余裕なんてまったく無い。

「仲間? いえいえ、私が提供するのはそんな不便な代物ではありませんよ」

「ほう……じゃあ何だよ?」

 ズイっとその男は俺に擦り寄ってきて声を出す。

「気になられます?」

「近寄るな気持ち悪い」

「ふふふ、あなたは私の好きな目をしていますね。良いでしょう。お教えします!」

 もったいぶって、ステッキを振り回しながら変な紳士は高らかにシャウトする。

「奴隷ですよ」

「奴隷?」

「ええ、奴隷です」

 奴隷というとアレだな。

 昔は現実でもあったらしいが、ゲームやマンガなんかでは頻繁に登場する。

 例えば異世界召喚モノとかな。

 乱暴な言い方だが、家具と同じで持ち主の所有物として扱われた人間で、強制的に重労働などに従事させられていたり、むちなんかで打たれているイメージがある。

 要するに命のある物だ。

 この世界は奴隷の販売もあるのか。

「なんで俺が奴隷を欲していると?」

うそを吐けない、決して主人を裏切れない人材」

 む……。

「奴隷には重度の呪いを施せるのですよ。主に逆らったら、それこそ命を代価にするような強力な呪いをね」

「ほう……」

 中々面白い話をするじゃないか。

 逆らったら死ぬ。下手に人を利用しようとか馬鹿な考えをしない人材とはまさしく俺が欲している物だな。

 俺には攻撃力が欠けている。だから仲間が欲しい。けど仲間は裏切るから金を掛ける訳にもいかない。だから仲間は増やせない。だけど奴隷は裏切れない。裏切りは死を意味するから。

「どうです?」

「話を聞こうじゃないか」

 奴隷商はニヤリと笑い、俺の案内をするのであった。

 裏路地を歩くことしばらく、浮浪者やガラの悪い連中が目立ち始めた。

 所々けんの様な声や物が壊れる様な音まで響いてくる。何より異臭もひどい。

 この国の闇も相当に深いようだ。

 昼間だというのに日が当たらない道を進み、まるでサーカスのテントのような小屋が路地の一角に現れる。

「こちらですよ勇者様」

「へいへい」

 奴隷商は不気味なステップで歩いていく。スキップにしては跳躍距離が長い。

 それから、奴隷商は予想通り、サーカステントの中へ俺を案内した。

「さて、ここで一応尋ねておくが、もしもだましたら……」

ちまたで有名なバルーン刑でしょうね。そのドサクサに逃げるおつもりでしょう?」

 ほう……そんな呼び名がつけられているのか。まあ、たわけた連中に制裁を加えるのに便利な手段だからな。有名にもなるだろう。

「勇者を奴隷として欲しいと言うお客様はおりましたし、私も可能性の一つとして勇者様にお近付きしましたが、考えを改めましたよ。はい」

「ん?」

「あなたは良いお客になる資質をお持ちだ。良い意味でも悪い意味でも」

「どういう意味だ?」

「さてね。どういう意味でしょう」

 なんともつかみ所の無い奴隷商だ。俺に何を期待しているのだろうか。

 金属音と共にサーカステントの中で厳重に閉じられた扉が開く。

「ほう……」

 店内の照明は薄暗く、ほのかに腐敗臭が立ち込めている。獣のような臭いも強く、あまり環境が良くないのはすぐに分かった。

 いくつもおりが設置されていて、中には人型の影がうごめいている。

「さて、こちらが当店でオススメの奴隷です」

 奴隷商が勧める檻に少しだけ近づいて中を確認する。

「グウウウウ……ガア!」

「人間じゃないぞ?」

 檻の中では人間のような、皮膚に獣の毛皮を貼り付けて鋭い牙や爪を生やした様な生物……簡単に表現するならおおかみ男がうなり声を上げて暴れまわっていた。

「獣人ですよ。一応、人の分類に入ります」

「獣人ね」

 ファンタジーでは割りと良く出てくる種類の人種だな。主に敵としてだけど。

「俺は勇者で、この世界に疎いんでね。詳しく教えてくれないか」

 他のクソ勇者のように俺は世界に詳しく無い。だから常識一つ知らないのだ。

 確かに町を見ていると、時々、イヌの耳をした人種や猫の耳を生やした奴を見かけることがある。あれを見て、典型的なファンタジーだな、とは思うが、そこまで数は多くない。

「メルロマルク王国は人間種至上主義ですからな。亜人や獣人には住みづらい場所でしてね」

「ふーん……」

 城下町となるとさすがに亜人、獣人もいるが、確かに旅の行商か冒険者崩れ程度しか見かけない。つまり差別されていて、まともな職には就けないという事だろう。

「で、その亜人と獣人とは何なんだ?」

「亜人とは人間に似た外見であるが、人とは異なる部位を持つ人種の総称。獣人とは亜人の獣度合いが強いものの呼び名です。はい」

「なるほど、カテゴリーでは同じという訳か」

「ええ、そして亜人種は魔物に近いと思われている故にこの国では生活が困難、故に奴隷として扱われているのです」

 何処の世の中にも闇がある。しかも人間では無いという認識のある場所ではこれほど都合の良い生き物は居ないという事か。

「そしてですね。奴隷には」

 パチンと奴隷商が指を鳴らす。すると奴隷商の腕に魔方陣が浮かび上がり、檻の中に居る狼男の胸に刻まれている魔方陣が光り輝いた。

「ガアアア! キャインキャイン!」

 狼男は胸を押さえて苦しみだしたかと思うともんぜつして転げまわる。もう一度、奴隷商がパチンと指を鳴らすと狼男の胸に輝く魔方陣は輝きを弱めて消えた。

「このように指示一つで罰を与えることが可能なのですよ」

「中々便利な魔法のようだな」

 仰向けに倒れる狼男を見ながら俺はつぶやく。

「俺も使えるのか?」

「ええ、何も指を鳴らさなくても条件を色々と設定できますよ。ステータス魔法に組み込むことも可能です」

「ふむ……」

 中々便利な設計をしているじゃないか。

「一応、奴隷に刻む文様にお客様の生体情報を覚えさせる儀式が必要でございますがね」

「奴隷の飼い主同士の命令の混濁が無いために、か?」

「物分りが良くて何よりです」

 ニイ……っと奴隷商は不気味に笑う。

 変な奴だ。

「まあ、良いだろう。コイツは幾らだ?」

「何分、戦闘において有能な分類ですからね……」

 金銭において俺のうわさは絶えないだろう。それに下手に吹っかけても買う気は無い。

 困っている俺に擦り寄って金をせしめようとしている可能性は高いからな。

「金貨一五枚でどうでしょう」

「相場が良く分からないが……相当オマケしているのだろうな?」

 金貨一枚は銀貨百枚に相当する。

 王様が支度金をバラで渡したのには理由がある。金貨はその単位の大きさゆえ、両替に困る特色を持っているから、城下町で売っている装備品は基本的に銀貨で買ったほうが店の方も対処が楽なのだ。

「もちろんでございます」

 ……。

 俺の凝視に奴隷商も笑顔で対応する。

「買えないのを分かっていて一番高いのを見せているな?」

「はい。あなたはいずれお得意様になるお方、目を養っていただかねばこちらも困ります。下手な奴隷商に粗悪品を売られかねません」

 どっちにしても怪しい奴だ。

「参考までにこの奴隷のステータスはコレでございますよ」

 小さな水晶を奴隷商は俺に見せる。するとアイコンが光り、文字が浮かび上がる。

 戦闘奴隷Lv75 種族 ろうじん

 その他色々と取得技能やらスキルやらが記載されている。

 75……俺のレベルの二十倍近い。

 こんな奴が配下に居たらどれだけ楽に戦えるか分からないな。

 おそらく、他の勇者よりも現時点では強いだろう。

 金銭の割に合うかと聞かれれば怪しいラインか。

 そもそも、健康状態もあまり良くなさそうなのは元より、命令に従っても普段の行動に支障をきたしそうな奴だ。迷惑料を差し引いてこの値段なのだろう。

「コロシアムで戦っていた奴隷だったのですがね。足と腕を悪くしてしまいまして、処分された者を拾い上げたのですよ」

「ふむ……」

 これで粗悪品という事なのか。つまりLvに見合わないと。

「さて、一番の商品は見てもらいました。お客様はどのような奴隷がお好みで?」

「安い奴でまだ壊れていないのが良いな」

「となると戦闘向きや肉体労働向きではなくなりますが? 噂では……」

「俺はやっていない!」

「ふふふ、私としてはどちらでも良いのです、ではどのような奴隷がお好みです?」

「変に家庭向きも困る。性奴隷なんて以ての外だ」

「ふむ……噂とは異なる様子ですね勇者様」

「……俺はやってない」

 ああ、俺は何だって言える。俺はしていない。

 俺に今必要なのは俺の代わりに敵を倒すことが出来る奴だけだ。それは別に使えれば何だって良いんだ。今日を、そして明日を生き残れれば……それでいい。

「性別は?」

「出来れば男が良いが問わない」

「ふむ……」

 奴隷商はポリポリと頬をく。

いささか愛玩用にも劣りますがよろしいので?」

「見た目を気にしてどうする」

「Lvも低いですよ?」

「戦力が欲しいなら育てる」

「……面白い返答ですな。人を信じておりませんのに」

「奴隷は人じゃないんだろ? 物を育てるなら盾と変わらない。裏切らないのなら育てるさ」

「これはしてやられましたな」

 クックックと奴隷商は何やら笑いを堪えている。

「ではこちらです」

 そのまま、檻がずっと続く小屋の中を歩かされると、ギャーギャーと騒がしい区域を抜けた。すると今度はビービーとうるさくなってきた。

 視線を向けると小汚い子供や老人の亜人が檻で暗い顔をしている。

 そうしてしばらく歩いた先で奴隷商は足を止めた。

「ここが勇者様に提供できる最低ラインの奴隷ですな」

 そうして指差したのは三つの檻だった。

 一つ目は片腕が変な方向に曲がっているウサギのような耳を生やした男。見た限りの年齢は二〇歳前後。奴隷という存在を絵に描いた様な姿だ。

 二つ目はガリガリにやせ細り、おびえた目で震えながらせきをする、犬にしては丸みを帯びた耳を生やし、妙に太い尻尾を生やした十歳くらいの女の子。

 三つ目は妙に殺気を放つ、目が逝っているリザードマンだ。ただ、なんかリザードマンにしては人に近い気がする。

「左から遺伝病のラビット種、パニックと病を患ったラクーン種、雑種のリザードマンです」

 なるほど、三つ目は雑種、混血か。

「どれも問題を抱えている奴ばかりだな」

「ご指定のボーダーを満たせる範囲だとここが限界ですな。これより低くなると、正直……」

 チラリと奥のほうに目を向ける奴隷商。俺も視線を向ける。

 遠目でも分かる、死の臭い。葬式で微かに臭う、あの臭いの濃度が濃い。あの先には何かが充満している。なんとなく腐敗臭もしてきている。あそこは目に入れると心が病みそうだ。

「ちなみに値段は?」

「左から銀貨二五枚、三十枚、四十枚となっております」

「ふむ、Lvは?」

ですね」

 即戦力を見たら混血のリザードマン、値段を見たら遺伝病か。全体的にやせ細っているな。

 ラビット種と呼ばれた男は片腕が使えなくても他の部位は問題がなさそうだ。

 全員表情は暗いが……ここに居る奴隷は皆こんな表情だ。

「そういえば、ここの奴隷はみんな静かだな」

「騒いだら罰を与えます故」

「なるほど」

 しつけは出来ているのか、もしくはしつけが出来ない奴隷を俺には見せていないか。

 リザードマンは戦力としては役に立つだろうが、他はダメだろうな。

「この真ん中のはなんで安いんだ?」

 ガリガリに痩せていて、怯えているが、見た感じ少女だ。顔は良くも悪くも無い。

「ラクーン種は人間に人気が無い種族ゆえ、これがフォックス種なら問題ありでも高値で取引されるのですが」

「ほう……」

 ラクーン種、直訳だとアライグマかタヌキか。それでも人に近い外見の女の子なら別の購買層が喜びそうだが。愛玩用のとしては基準値以下だから値段が安い訳か。

「夜間にパニックを起します故、手をこまねいているのです」

「在庫処分の中でまともな方がコレか?」

「いやはや、痛いところを突きますな」

 他の奴隷に比べて労働向きでは無い。Lvも一番低いと来たものだ。

 どれが良いものか。悩む所ではある。

 ラクーン種の奴隷と目が合う。そこで俺は心の底から湧き上がる感情に気が付いた。

盾の勇者の成り上がり 挿絵4

 そうだ。コイツは女、あのクソ女と同じ性別なんだよな。怯えるその目を見て、なんとも支配欲を刺激される。あの女を奴隷にしたと思うのなら良いかも知れないなぁ……死んだら死んだで憂さも少しは晴れるだろうし。

「じゃあ真ん中の奴隷を買うとしよう」

「なんとも邪悪な笑みに私も大満足でございますよ」

 奴隷商は檻の鍵を取り出してラクーン種の女の子を檻から出し、首輪につなぐ。

「ヒィ!?

 怯える女の子を見て、なんとも満たされた気持ちになっていくのを俺は感じていた。あの女がこんな顔をしている光景を想像すると何だか気持ちが良くなってくる。

 それから鎖で繋がれた女の子を引きずって、元来た道を戻り、サーカステント内の少し開けた場所で奴隷商は人を呼び、インクの入ったつぼを持って来させる。そして小皿にインクを移したかと思うと俺に向けて差し出した。

「さあ勇者様、少量の血をお分けください。そうすれば奴隷登録は終了し、この奴隷は勇者様の物です」

「なるほどね」

 俺は作業用のナイフを自分の指に軽く突き立てる。誰かに刃物を突きつけられると盾は反応するが自分の攻撃には意味が無いらしい。そして戦闘の意思では無い場合、盾は反応しない。

 血がにじむのを待ち、小皿にあるインクに数滴落とす。奴隷商はインクを筆で吸い取り、女の子が羽織っていた布を部下に引き剥がさせて、胸に刻まれている奴隷の文様に塗りたくる。

「キャ、キャアアアアアアアアア……!」

 奴隷の文様は光り輝き、俺のステータス魔法にアイコンが点灯する。

 奴隷を獲得しました。

 使役による条件設定を開示します。

 ズラーっと色々な条件が載っている。

 俺はざっと目を通し、寝込みに襲い掛かる、主の命令を拒否するなどの違反をした場合、激痛で苦しむように設定する。

 ついでに同行者設定というアイコンが奴隷項目以外の所で目に入ったのでチェックを入れる。

 奴隷A、名前が分からないからこう書かれている。

 どうやら任意で条件を変更できるようだから、後で細かく指示するとしよう。

「これでこの奴隷は勇者様の物です。では料金を」

「ああ」

 俺は奴隷商に銀貨を三一枚渡す。

「一枚、多いですよ?」

「この手続きに対する手数料だ。搾り取るつもりだったんだろう?」

「……よくお分かりで」

 先に払いましたという顔をすればあちらも文句は言い辛い。

 これで尚、俺からむしり取るつもりなのなら……どうしたものか。

「まあ、良いでしょう。こちらも不良在庫の処分が出来ました故」

「ちなみに、あの手続きはどれくらいなんだ?」

「ふふ、込みでの料金ですよ」

「どうだかな」

 奴隷商が笑うので俺は笑い返してやった。

「本当に食えないお方だ。ゾクゾクしてきましたよ」

「どうとでも言え」

「ではまたのご来店を楽しみにしています」

「ああ」

 俺はよろよろと歩く奴隷に来るように命令してサーカステントを後にする。

 暗い面持ちで奴隷は俺の後をついて来る。

「さて、お前の名前を聞いておこうか」

「……コホ……」

 顔を逸らして返答を拒否する。

 だが、その行動は愚かだ。俺の命令を拒否した場合、奴隷としての効果が発動するからな。

「ぐ、ぐう……」

 奴隷は胸を押さえて苦しみだした。

「ほら、名前を言え」

「ラ、ラフタリア……コホ、コホ!」

「そうか、ラフタリアか、行くぞ」

 名前を言ったので楽になったラフタリアは呼吸を整える。

 そして俺はラフタリアの手を掴んで裏路地を進むのだった。

「……」

 ラフタリアは、手を繋ぐ俺を怯えた様な表情で見上げながら歩く……。

十話 お子様ランチ

「アンちゃん……」

 武器屋に顔を出すと、親父がラフタリアを連れた俺を見てあきれた様な声を絞り出す。

 そう、俺が欲しいのは戦う物……攻撃力なのだ。武器を持たせなければ話にならない。

「コイツが使えそうで銀貨六枚の範囲の武器をせ」

「……はぁ」

 武器屋の親父は深いためいきを吐いた。

「国が悪いのか、それともアンちゃんが汚れちまったのか……まあいいや、銀貨六枚だな」

「後は在庫処分の服とマント、まだ残ってるか?」

「……良いよ。オマケしてやる」

 武器屋の親父が嘆かわしいとつぶやきながら、ナイフを数本持ってくる。

「銀貨六枚だとコレが範囲だな」

 左から銅、青銅、鉄のナイフだ。

 グリップの範囲でも値段が変わるようだ。

 俺はラフタリアの手に何度もナイフを持ち比べさせ、一番持ちやすそうなナイフを選ぶ。

「これで良い」

 ナイフを持たされて顔面そうはくのラフタリアは俺と親父に視線を送る。

「ホラ、オマケの服とマント」

 親父はぶっきらぼうに俺にオマケの品を渡し、更衣室を案内する。

 ナイフを没収した後、ラフタリアにオマケの品を持たせて行く様に指示する。よろよろとせきをしながらラフタリアは更衣室に入り、着替えた。

「……後で行水でもさせるか」

 草原の近くに川が流れている。この国に通る川は上流から分岐した川で、最近では俺の生息地域はそこにシフトしている。魚を釣れば食料にも困らないので良い場所だ。

 手づかみでも取れるくらい魚が居て、フィッシュシールドと言う解放効果、釣り技能という盾も既に取得している。

 おずおずと着替えを終えたラフタリアは俺の方へ無言でけてくる。命令無視は痛みを伴うのが分かっているのだろう。俺はラフタリアの視線まで腰を下ろして話しかける。

「さて、ラフタリア、これがお前の武器だ。そして俺はお前に魔物と戦う事を強要する。分かるな?」

「……」

 ラフタリアはおびえる目を向けながらコクリとうなずく。

 そうしないと苦しくなるからだ。

「じゃあ、ナイフを渡すから

 俺はマントの下で食いついているオレンジバルーンをラフタリアの前に見せ付けて取り出す。

「これを刺して割れ」

「ヒィ!?

 俺が魔物を隠していた事にラフタリアは武器を取り落としそうになるほど驚いた声を上げる。

「え……い……いや」

「命令だ。従え」

「い、いや」

 ブンブンと首を振るラフタリア。しかしラフタリアには命令を拒むと苦しむ魔法が掛けられている。

「ぐ……」

「ほら、刺さないと痛くなるのはお前だぞ」

「コホ……コホ!」

 苦痛に顔をゆがませるラフタリアは震える手に力を込めて武器を握り締める。

「アンタ……」

 その様子を武器屋の親父は絶句しながら見下ろしていた。

 ラフタリアはしっかりと攻撃の意志を持って、俺にらいつくオレンジバルーンを後ろから突き刺した。

「弱い! もっと力を入れろ!」

「……!? えい!」

 突きが跳ね返されたラフタリアは驚きながら勢いを込めてバルーンにもう一度突きを加える。

 大きな音を立ててバルーンは弾けた。

 EXP

 ラフタリアEXP

 同行者が敵を倒したのを理解させるテロップが俺の視界に浮かび上がる。

 ここで一つ、俺は殺意が浮かんだ。

 あのクソ女。俺と同行しているつもりも無ければシステム的なことをするつもりすらなかったという事か。

「よし、良くやった」

 ラフタリアの頭をでてやる。するとラフタリアは不思議そうな表情をして俺に顔を向けた。

「じゃあ次はこれだ」

 俺に一週間近く喰らいついている一番強いバルーン。レッドバルーンを掴み、先ほどと同じように見せ付ける。

 一週間、飲まず食わずでみ付いているレッドバルーンは少し弱ってきているようだ。これならLvのひ弱な少女の攻撃だって耐えられないだろう。

 コクリと頷いたラフタリアは先ほどよりもしっかりした目でバルーンを後ろから突き刺す。

 EXP

 ラフタリアEXP

 と、アイコンが目に入った。

「よし、どうやら戦えるようだな、行くとしよう」

「……コホ」

 武器を腰にしまうように指示を出し、ラフタリアは素直に従う。

「あーあれだ。言わせてくれ」

「なんだ?」

 親父が俺をにらみつけながらほざく。

「アンタ、絶対、ろくな死に方しないぞ」

「お褒めに預かり光栄です」

 嫌味には嫌味で返してやった。

 店を出た俺はその足で草原の方へ向う為、露店街を進む。ラフタリアは町並みをキョロキョロと見ながら手をつないで隣を歩く。その途中で食い物屋の屋台の匂いが鼻を刺激した。

 所持銀貨、あと三枚……そういえば小腹が空いてきたな。

 ぐう……ラフタリアの方からそんな音が聞こえてくる。

 顔を向けると。

「あ!」

 ブンブンと違うと主張してきた。何を我慢しているのだろうか。

 今は、ラフタリアが敵を仕留めてくれないと俺の稼ぎにならない。刃の無いナイフは必要無い。腹が空いて力が出ないのでは困る。俺は手ごろな定食屋を探して店に入った。

「いらっしゃい……ませ!」

 ボロボロの格好なので、店員は嫌な顔をしつつ、座る場所へ案内してくれる。

 その途中、ラフタリアは別の席に座っている親子を眺めていた。視線の先は子供がおいしそうに食べているお子様ランチのようなメニューで、うらやましそうに指をくわえている。

 アレが食べたいのか。席に座った俺達は、店員が去る前に注文する。

「えっと、俺はこの店で一番安いランチね。こいつには、あそこの席にいる子供が食べてるメニューで」

「え!?

 びっくりした表情で俺を見つめるラフタリア。何かそんなに驚くようなものでもあったのだろうか?

「了解しました。銅貨九枚です」

「ほい」

 銀貨を渡し、お釣りをもらう。

 ぼんやりとメニューが運ばれてくるのを待ちながら店内を見渡す。

 ……俺の方を見ながらヒソヒソと内緒話をする連中が多いな。

 まったく、とんだ異世界だ。

「なん、で?」

「ん?」

 ラフタリアの声が聞こえたので視線を下げる。するとラフタリアは不思議そうな顔で俺を見つめていた。奴隷にまともな食い物を与えた事に疑問を抱いているんだろうな。

「お前が食いたいって顔してたからだろ。別のを食いたかったか?」

 ラフタリアはブンブンと頭を横に振る。

「なん、で、食べさせてくれるの?」

「だから言ってるだろ、お前が食べたいって顔しているからだ」

「でも……」

 何をそんなに意固地になっているのか。

「とにかく飯を食って栄養をつけろ。そんなガリガリじゃこの先、死ぬぞ」

 まあ、死んだらそれまでの稼ぎで新しい奴隷を買うだけだけどな。

「お待たせしました」

 しばらくして注文したメニューが運ばれてきた。俺はラフタリアの前にお子様ランチ? を置いて自分の飯(ベーコン定食?)に手を伸ばす。うん。味がしない。

 みんなして俺をめているのかと疑いたくなる程、味がしなくて不味い定食だ。

 周りは美味そうに食べているが、頭がおかしいとしか思えない。

「……」

 ラフタリアがお子様ランチ? を凝視しながら固まっている。

「食べないのか?」

「……良いの?」

「はぁ……良いから食べろ」

 俺の命令にラフタリアの顔が少し歪む。

「うん」

盾の勇者の成り上がり 挿絵5

 恐る恐ると言った様子でラフタリアはお子様ランチ(?)に素手でかぶりつく。

 ま、奴隷だから育ちの悪いのはしょうがない。

 何やらヒソヒソ話が大きくなっているような気がするけど、気にする必要も無い。

 チキンライスっぽい主食の上にある旗をラフタリアは大事そうに握りながら、もぐもぐと一心不乱に食べる。

いか?」

「はい!」

 やはり俺だけ味がしないのか? それともこいつもグルなのか? 奴隷紋でうそを見破るか……ってこの奴隷紋自体が嘘かもしれないんだから調べようがない。

 俺はそんな奴隷との食事をしながら、これからの方針を頭に浮かべているのだった。

\気になる続きは本編で!/

盾の勇者の成り上がり 第1巻


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